「えぇとこれとこれと…そうですカスミソウを外周に……」 「…何故こんなことに?」  エルマ中尉が花屋の店主に細かく指示を出しているのを眺めながら独りごちる。どこを 向いても花ばかりのその空間は、私にとっては非常に居心地の悪いものだった。  二人のやり取りを尻目に、先日基地であったことを頭の端から引っ張り出していた。  その日、私はエルマ中尉の二番機に入って哨戒に出ていた。  最近のカウハバは有り体に言って暇なのだが、いつネウロイの襲撃があるか分からない ここでは、夜間でも哨戒は欠かせない重要な任務だ。 「プレゼント、ですか?」 「ああ。何か良い物はないか?」  太陽の沈まない空を背景に、先日の少女の話をした。あの日からスラッセンに行くと、 それなりの頻度であの少女と会うようになり、その度に何かしらの物を贈られている。と ころが、こちらは何も返していない。  流石にそれは失礼だろうと思い、こちらからも贈り物をしたいと考えた。が、中々良い 物が思いつかず、こうしてエルマ中尉に相談することにしたのだ。 「う〜ん? 貰っているのは花とかちょっとしたものなんですよね?」  ゆっくりと頷き返すと、腕を組んで何やら表情を難しくする。そこまで真剣にならなく てもいい気がするが、そういう人だからこそ相談する気になった。他のメンバーならどう なることか。 「最初に頂いたのも花ですし、こちらも花を返すのが良いと思いますよ?」  勿論それなりの物を選んで、ですが、と付け加え、腕を解いた。 「花か…」  確かに相応しい気がするが、生憎私は詳しいどころかむしろ疎い。 「エルマ中尉。次の非番のときに付き合ってくれないか」  私は花に詳しくないんだ、と言うと軽く首を傾げるにようにして、 「ビューリング少尉が選べば何でもいいと思いますけど…いいですよ」  少し笑顔になった。 「こんな感じでどうです?」  目の前に花束、というよりブーケが差し出されて現実に引き戻される。  ブーケは、白く花弁が小さい花を外周にし、中央のやや大きめの花弁を持つ薄紅の花に 向けて、淡い桃色の花が並んでいる。さらに包装も桃色を基調としたもので、ご丁寧にリ ボンまで付いているという随分可愛らしいものだった。正直に言って私がこれを持って歩 くのは何かの拷問ではないだろうか。  確かに選ぶのを手伝ってくれと頼んだが、何もこんな少女趣味なブーケでなくても、と そんな考えが浮かぶ。しかし、頼んだ手前口には出せない。 「ああ…いいん、じゃないか?」  じゃあ決まりですね、と言い、さっさと精算を済ませてしまうと、二本のブーケを私の 手に握らせてきた。 (待て、二本?)  疑問に思い、エルマ中尉の顔を見ると、少し照れたように頬を赤らめて、 「わたしも感謝が欲しかったりします。なーんて…」 「……」 「え。えっと。じょ、冗談ですよ? でもあのそのわたしもやっぱり女の子で…」  私が何も言わずにいたせいか、わたわたと手を振りながら言い訳を始める。尻すぼみに なっていく言い訳を聞き流しながら手元のブーケを見て、エルマ中尉に気付かれないよう にため息を吐く。 「エルマ中尉」 「はっ! はいぃ!?」  何故かぴしりと敬礼まで決めてきた。 「今日は、その…ありがとう」  頬が熱くなってくる。大分気恥ずかしいが、右のブーケを差し出す。  エルマ中尉は、いきなりのことで呆けたような顔を見せたが、すぐに満面の笑みを浮か べる。 「えへへぇ…こちらこそ、ありがとうございます」 「嬉しそうだな中尉」 「はい、とても」  ぶっきら棒な私の言葉に対し、上機嫌にくるくると表情を変えてこちらを向く。  自分で選んだ物じゃないか、と言ってみるが、 「誰かに贈って貰える、それが嬉しいんですよ。ですから、その子もきっと喜んでくれま す」  両手を広げ、右手に持ったブーケを軽く振るようにしながら断言してきた。  そんなものかと納得し、自分はどうなのか考えてみる。貰っているから返す、というつ もりでいたが初めて花を貰ったとき何も思わなかっただろうか。そんなことは無い。嬉し かったと思う。 「あれ…? ジープの近くに誰かいますよ?」  はっと顔を上げると、アッシュ・ブロンドの少女が白い布が掛かった籠を提げて、落ち 着き無くキョロキョロと周りを見回しながら立っていた。  あの子ですね、というエルマ中尉の囁きに頷いて少しだけ逡巡するが、首を振り、少女 に、おーいと声をかける。  私に気付いた少女は元気よくぶんぶんと腕を振り回し、こちらに駆け寄ってきた。 「あ、あの、これを…」  おずおず、といった様に手提げの籠が差し出される。それを私が左手で受け取ると少女 は掛けていた布を外す。 「メイフラワーか。確かスオムスの国花だったな」 「はいっ」  籠の中では白い球状の花が鈴なりに咲いていた。 「…では、君はこれを受け取ってくれ」 「……え?」  差し出したブーケを前に少女は固まってしまう。そんなに長い時間ではなかったのだろ うが、何故かとても長い時間のように感じ、 「…………気に、入らないか?」  そう、尋ねた。 「いっ、いいえ! そんなことないです!」  慌てているが、恐る恐る両手で壊れ物を扱うかのようにブーケを受け取ってくれた。 「いつもの礼、だ。ありがとう」 「ぅぁ…あの…どう、いたしまして」  笑いかけると、顔を真っ赤にしてブーケの後ろに隠れてしまい、さらに声をかけようと すると、 「あ、あ、ありがとうございますっ!」  それだけ言い置いて、まるで逃げるかのように走っていってしまった。  灰色の髪が見えなくなるのをぼうっと見送った後、やれやれと肩を竦め、エルマ中尉に 帰ろうと声をかける。が、返事が無い。後ろを向くが誰もいない。辺りを見渡すとジープ の陰からVサインを送っているエルマ中尉が見えた。 「可愛い子でしたね?」  手を出しちゃ駄目ですよ、などと言ってくるエルマ中尉をあしらいつつ、カウハバへと ジープを走らせる。  私はレズではない。 「それにしても綺麗ですねこのメイフラワー」 「そうだな」  それには同意しておく。 「うふふ。黙っていましたけど、ブーケに使った花の花言葉の一つは感謝なんですよ?」 「…ありがとう中尉」  私の礼を半分くらい無視して、愛の告白とか混ぜておけば面白かったかもしれませんね などと続けている。  もしかしなくても、私は今、エルマ中尉にからかわれているようだ。 「メイフラワーの花言葉はなんていうんだ?」  ふと思い浮かんだことを話題逸らしも兼ねて聞いてみる。 「純粋、それと意識しない美しさ。ですよ……やっぱりビューリング少尉は想われていま すね?」  エルマ中尉はくすくすと笑っているが、私は一気に熱を帯びた頬を冷ますのに必死だっ た。 「あ、その様子だと満更でも無いみたいですね? でも駄目ですよ? 女の子すきーは地 獄に落ちますから」  心底楽しそうなその声に思わず空を仰ぎ、吐き捨てるよう呟く。 「………………ガッデム…ッ!」 ねんのため MOUSOUがDAIBOUSOU!! ふぁんたじー!ふぁんたじー! みししっぴー!みししっぴー! 脳内設定と妄想の嵐! つーか続けちまったよおい!どうすんよ!関羽何か言ってやれ!! スオムスというかフィンランドにその花あんの?とかはNGですね まあいざというときはまほーでオールオッケーですよね しかしスオムスの国花も鈴蘭なんかねー