白い無地の包装紙で包まれた箱にくるくると赤い縁取りのリボンが巻かれていく。男性 への贈り物だからシンプルに。そう頼んだ通り、素っ気の無い見た目に仕上がっていくの を見守っていると、リボンの張りを確かめながらタバコ屋の店主が口を開いた。 「それにしても愛の告白にパイプたぁ、また粋じゃねぇか!」 「いや、元上司への嫌がらせだ」  がははと豪放に笑う店主に冷たく言い返す。 「おっとそいつぁ失礼……ところで、どうだい? お安くしとくぜ?」  ばちりとウインクされるが、軽く鼻を鳴らして薄く笑い、 「後ろの御婦人が睨んでいるぞ?」  おそらく店主の妻であろう中々の迫力で彼を睨んでいる女性に目線を移す。  びくりと肩を震わせた店主は、錆びた扉を無理やり開けるような動作で振り返り、愛想 笑いを浮かべているようだ。  それを見た女性が、まったく、と呟きながら去っていくのを確認して、店主はこちらに 向き直った。 「は、はははは。さぁて、これでいいかい?」  差し出された箱を受け取り、一目見るだけ見て礼を言う。 「ありがとう。奥方とは仲良くしたほうがいいぞ」  ぐ、と何かを喉に詰まらせたような音を出す店主に一つ手を振って店を出る。ふと空を 見上げると、未だ復興の槌の音が響く昼下がりのスラッセンは快晴だった。 (私の時節の挨拶は不気味か?)  以前来たカフェのテラスで、パイプを選ぶ前に買っておいたレターセットを眺めてタバ コをふかす。内容は大体決めてあるのだが、慣れないことをしようとしているせいか、書 き出しが思いつかない。 「ふむ」  短くなったタバコを灰皿に押し付けてポケットを探る、が、何の感触もしない。どうや ら今ので最後の一本だったようだ。テーブルの上に目をやると、湯気の出ていないカップ と七本のタバコが突き刺さっている灰皿が見えた。溜息を吐いて、すっかり冷めたコーヒ ーを飲み干す。 (……帰るか)  ここでこうしていても思いつかないものは思いつかない。実際に書いている途中に何か 思いつくだろうと考え、札を置いて立ち上がった。  二つの荷物を抱えてブリタニアにいた頃のことに思いを馳せる。  あの奥歯をすり減らしていそうな男は、命令とはいえ戦友が死んで自棄になっていた私 をよく飼っていたものだ。 (…ついでにあいつにも何か書いておくか)  姉妹が多くて大変だ、そう笑顔で語っていた下士官の顔が思い浮かぶ。そこまで交流の あった人間ではないが、手紙くらい書いても構わないだろう。 「ふふっ」  私も変わったものだ、と意識しない呟きが漏れた。  ここ最近、義勇中隊に宛がわれた部屋に皆が揃っていることは、就寝時以外まずない。  トモコはハルカとジュゼッピーナに追い回されて、そこかしこで盛り始めようとするの で外でやるように言ってある。根が真面目なトモコが自主訓練しているときは、それに付 き合って訓練していることもあるようだが。  ウルスラは例の実験で出張っていることが多い。キャサリンは大抵それに付き添っては とばっちりを食らっているようだ。 「プレゼントは貰っても嬉しいだけだと思いますけど?」 「私の、だぞ?」  そういう訳で、部屋には任務中以外基地でのんびりしていることが多いエルマ中尉と元 上官宛に手紙を書いている私だけがいた。 「え〜と? んー、でも意外な人から貰うのはもっと嬉しい気がしますよ」 「それは、ブリタニアにいた頃の私を知らないから言えることだな」 「何か、してたんですか?」  不思議そうな顔になるエルマ中尉を見て一瞬しまったと感じるが、別に隠す程のことで も無い。そう思い直して口を開く。 「あの頃は半ば自棄になっていてな。命令違反で何度も営倉に行きになった。銃殺になり かけたこともあったか」 「じゅ、銃殺…っ!?」  エルマ中尉は泣きそうな顔になってしまった。できる限り軽い物言いをしたつもりだっ たのだが。 「トモコ以外には話していないことだが…」  ゆっくりと語る。個人の撃墜数に拘っていた頃のこと。戦友がいたこと。戦友が死んだ こと。スオムスには死ぬつもりで来たこと。 「あっ、あの…ごめんなさい。軽々しく聞いていいことじゃありませんでした」 「勝手に私が話しただけだ」  気にしなくていい、と年下の上官の頭をぽんぽんと叩くように撫でる。エルマ中尉は少 しくすぐったそうな顔をしたが、まだ不安そうにしていた。 「その、ビューリング少尉はまだ、死にたい、と思っていますか…?」 「いや全く」  おずおず、というよりびくびくとした質問に即答する。  それを聞いてほっとした表情になった中尉が不思議なことを口にした。 「良かったです…じゃあ、そんな少尉にご褒美があるので目を瞑ってください」 「…? これでいいか」  訳が分からないが、とりあえず従って目を瞑る。がさがさと紙が擦れる音が聞こえ、 「少し、口を開いてください」 素直に口を開くと甘い球状のものが滑り込んできた。 「飴?」 「コーヒー味です。コーヒー、お好きでしたよね?」  確かにコーヒーの味がするが、それ以上に甘過ぎる。しかし、にこにこと飴の箱を渡し てくるエルマ中尉にそれを伝えることはできなかった。 「タバコばかり吸っているのは体に悪いですよ?」  そう言って、哨戒任務がある、と部屋から出て行いくエルマ中尉を見送り、一人取り残 された部屋でころころと飴を転がしながら息を吐く。 (あまい…) 「ビューリング少尉、難しい顔をされてどうしたんですか?」 「ん、ああ…前に送ったパイプの礼が来たんだが、素直に感謝されてしまった」 「うふふっ。言った通りでしょう?」 「…そうだな」 ねんのため ダンヒルかどうかは皆の心の中に!ていうか種類多すぎて具体的な名前を出すのが憚られるよアレ タバコに関してはラッキーストライクだと嬉しい人もいるのかなーとか思ったけど本編中でリベリオン産としか明言されてないのでそのまま なんか違和感あると思って確認したらビューリングさんはオヘアさんのことキャサリンって呼んでたねコピーウィッチ戦でだから修正しました あと開き直った