よしこ×エイラのマイナー百合 エイラ好き好きよしこ暴走SSの続き 日本語(扶桑語?)って不便ね、って話。ギップリャ! ※クサすぎて後半は壊れてますが無害です。 「エイラさん、席、となりいい?」 「おー、腹減ったなー」 「エイラさん、一緒に訓練しよ!」 「おー、バルクホルン隊の3番機な」 「エイラさん…その、一緒にお風呂行こ…?」 「…おー、支度するからちょっと待って」 「…エイラさん…一緒の布団で寝ても、いい…?」 「何言ってんだミヤフジー!?」 「ぬぅ…。」 「…どったの?」 思わず唸り声が出た。 傍らでコーヒーを注いでいたハルトマンが何事かと聞いてくる。 「サーニャの事で何か悩み事でもあんの?」 「…違げーよ…ってかサーニャは関係ナイ…」 テーブルに突っ伏してぼーっと湯気が立ち上るカップを見ていた。 ちらりと壁に掛かった時計に目を移すと午後3時。 いつもなら午後イチの訓練が終わり、ちょうどあのツンツンメガネが 「お茶の時間ですわ!」 とか言い出して、テラスで盛大なお茶会を催してる時間だろう。 …ていうか絶賛開催中。 ついさっきミヤフジから猛烈に誘われてたのを、性に合わないとかそんな理由をつけて断ってきたところだ。 「あれま珍しい。エイラがサーニャ以外のことで悩むなんてさ」 「ぶつぞ…」 「ちょっとした冗談じゃーん♪」 せくしー(と本人は言い張っている)なポーズをとるハルトマン。 いいよなぁ悩み少なそうな奴は…。 「そんなポーズとってもかわいくねーゾ」 「うわひどー!こーんなせくしーぎゃる捕まえといて」 「鏡見て言えよ…」 「ツッコミに覇気がないなぁ…マジでお悩み中みたいだね」 悩んでる…っつーか困ってる。 「宮藤のことでしょ」 「…なんでわかるんだよ」 図星だった。 「そりゃ見てればわかるよ〜宮藤ったら猛烈アプローチだもんね〜もてる女は辛いよね、お互いさ」 「なんだよそれ…」 ここ最近のミヤフジは私にベッタリだ。 前はそれ程でもなかったと思うんだけど…。 あの臨時夜間専従員でチームになったあたりから妙にベタベタしてくる気がする。 ハッキリ言ってすげー恥ずかしいし、気疲れする。 ベタベタ具合で言うとルッキーニとシャーリーのそれ以上だ。 …やっぱあの時の… 「エイラー?」 「わっ!?何々!?」 「コーヒー冷めるよ?」 言われてカップを見ると湯気が消えて温度も徐々に下がろうとしていた。 「…」 「また新しいの淹れたげよっか?」 「いや、いいよ」 ぬるくなったコーヒーをぐいっと一息で飲み干して席を立つ。 「ご馳走様」 「お粗末様。今日もやってるねぇお茶会」 窓から外を見下ろしてハルトマンが言う。 基地の高い位置にあるこの給湯室兼休憩所からはテラスと中庭がよく見えた。 「ああいう優雅なのは性に合わないんだよナ」 「あたしも〜」 とか言いつつ誰かに手を振るハルトマンを横目に給湯室を出た。 誰に手を振ってたんだろうな。 「ん〜、なんか元気無いような気がするな、あいつ」 …ミヤフジかな。 「なー、サーニャはミヤフジの事どう思うー?」 ごろんとサーニャのベッドに寝転んだまま聞いてみる。 「…芳佳ちゃんのこと?」 ぱたぱたと哨戒任務の準備をする手を止めてサーニャが聞き返した。 「どうって…?」 「何でもいーんだよ。あいつ最近変わったなー、と思って」 あのネウロイを倒してから変わったことはミヤフジの行動だけじゃなかった。 サーニャが前よりちょっと明るくなったりとか。 サーニャのミヤフジの呼び方が『宮藤さん』から『芳佳ちゃん』に変化したりとか。 あんなに引っ込み思案だったサーニャとあんなに早く仲良くなるなんてやっぱりミヤフジは変わってる。 …そんな言い方はサーニャに失礼か。 (ごめんサーニャ、あとついでにミヤフジ) 心の中で謝った。 「…別にいつも通り仲良しだよ」 「そっか」 「…?変なエイラ…」 首をかしげてまた準備に戻るサーニャ。 今日は妙に大荷物な気がするけど、たぶんちょっとだけサボって空のお茶会でも楽しむんだろう。 サボりはよくないけど息抜きは大切だぞ、って教えたのは他でもない私だったりする。 一目でわかるような大荷物だったりするけど、サーニャは可愛くて真面目で優秀だからミーナ隊長も目を瞑ってくれているようだ。 「…そういえば最近エイラと芳佳ちゃんって仲良しだよね」 「ぅえっ!?そ、そーかナ?」 紅茶を保温水筒に注ぎながらサーニャが言った。 思わずびくっと飛び起きてしまう。 「うん…ご飯の時とかお風呂の時とか、私もよく一緒になるし」 「へ、へぇ…そーだっけかナ」 うう…いや違うんだサーニャ! これはその、ミヤフジがべったり寄ってくるだけであってサーニャをないがしろにしているわけじゃ…。 …ってなんで言い訳してるんだ私! 別にやましいところなんて何も無い!はず! 頭の中で訳のわからない言い訳がぐるぐる回っている。 「…私は嬉しいな…」 水筒のフタをきゅっと締め終わったサーニャが振り向いて言う。 「えっ?」 「…大切なお友達が二人とも、仲良くしてくれてるのが嬉しいの…」 「サーニャ…」 不覚にもじーんときてしまった。 あぁやっぱりサーニャは優しい私の天使だ……ん?今私の事何つった? 「エイラさん、サーニャちゃん、夕食の時間だよ!」 頭の中でいろいろ整理しようとしたらこんこんとドアをノックしてミヤフジが勢いよく入ってきた。 むぅ…こいつは本当に空気が読めてるんだか読めてないんだか…。 「お、おうミヤフジ」 「ありがとう芳佳ちゃん、今行くね」 噂をすればなんとやらとはよく言ったもので。 当人が現れて少しばつが悪い私とは対照的に、サーニャは気にも留めてないようだった。 「エイラさんも早く行かないと冷めちゃうよ」 満面の笑顔で誘ってくれるミヤフジ。 お茶会の誘いを断った事なんて微塵も気にしてないようだった。 うう…笑顔が眩しすぎて罪悪感が…。 「ん、ちょっと部屋に忘れ物しちゃってさ。取ってから行くからサーニャと先行っててくれよ」 「あ、うん…」 …そんな悲しそうな目すんなよ。 忘れ物なんて嘘っぱちだった。 単に一人でゆっくり考えたかっただけ。 一人で殺風景な廊下をつかつか歩いて思案をめぐらせた。 『…大切なお友達が…』 …これって玉砕ってことなのかな。 いやいやいや、まだ私はサーニャの事を諦めてなんか…って私はサーニャをどうしたいんだ。 サーニャは私の、何だっけ? サーニャの事は好きだ。これは断言できる。 ミヤフジの事だって好きだ。サーニャとは別ベクトルだけど。…別? サーニャの好き、とミヤフジの好き、は違う好き? 「…わかんね…」 考えれば考えるほどいろいろこんがらがってフクザツになっていく気がする。 でも物事のパーツ自体はすごく単純のような気もする。 そうこうしているうちに自室の前を通り過ぎかけていた。 (…一応忘れ物…ってことになってるからな…) ドアを開けて電気もつけずにすたすたと自前のテーブルの前まで歩いて、愛用のタロットの束を引っ掴んだ。 ちらりと水晶玉を見る。 ぐにゃりとゆがんだ反射でもハッキリ解るほど、眉間に皺が寄っていた。 「…こんな顔してちゃまたあいつに心配かけちゃうな」 タロットをポケットに入れ、顔をぱしっと叩いてドアを閉めた。 「うー、くっそー…」 「まーまー、夕食は戦争だよ?ユーティライネン少尉」 久々に夕食の席が隣になったハルトマンが笑う。 考え事しながらのろのろ歩いた結果、食堂に着いたのは私が最後だった。 「それにしたってこのシチュー人参だらけじゃねーか…」 「フハハ…撃墜数もお肉も、早い者勝ちなのだよ。あむっ」 「…流石はカールスラント期待のエース、ハルトマン中尉。食堂到着もトップかい?」 「とーぜん♪」 ハルトマンと話す時は楽でいい。 一応上官ではあるけど、歳が近いせいかこの隊内じゃ一番気兼ねなく話せる相手だったりする。 人参だらけのシチューを口に運びながらちらりとあいつの席を見た。 リーネにサーニャにルッキーニ…。ミヤフジはいつも、笑顔でみんなの中心にいる。 「…気になってんでしょ」 「むぐっ!?」 ハルトマンが急に変な事言うから盛大にむせた。 「げほっ、えほっ…な、なんだよ急に」 「いーやー?べっつにー?」 くそー…全て見透かしたような顔しやがって。 けど状況判断と、私が今一番弱い所を的確に突いて来るのはさすが最年少250機撃墜のエースといったところか。 「サーニャは大人しくて可愛いけど宮藤も犬的な可愛さがあるよねー?ちょっとアホっぽくて一途でさ」 「可愛っ…!?…今その話が関係あんのかよ…」 「いやいや、独り言ってゆーか客観的に見て…ね?」 ナニが客観的に見て、だ。完全に私の事からかってるんじゃねーか。 「けどさ、あんた一人がウジウジモヤモヤ考えるべき問題じゃないと思うんだよねー。人と人との関係ってのはさ」 私と、ミヤフジの関係? 「でっかい独り言だナ」 「んーん。これはアダルト魔法少女エーリカちゃんからのアドバイス♪」 「…?どうでもいいけどアダルトな少女ってなんか間違ってないかー?」 「そうかな?…そうかも!うわどうしよう!?」 「知らネー」 妙な事で慌てるハルトマンを放っておいて食事を続けた。 ちらっとまた談笑に沸くグループを見た。 サーニャが笑っている。ミヤフジも笑顔だった。 (仲良しならそれでいいじゃんか…) ふと、私の視線に気づいたのかあいつと目が合ってしまった。 いつもの笑顔を向けてくれるミヤフジ。 けど気恥ずかしかったのか、いろいろ考えてて混乱してたのか、私はすぐに目を逸らしてしまう。 人参しか浮いてないシチューをまた一口食べて、変化のない味に辟易した。 急に横っ腹にどすっと鈍い痛みが走る。 「ぐふっ…!?何すんだよハルト…」 いつもへらへら笑ってるハルトマンが珍しく真剣な顔をしてどこかを顎で指した。 何かと思って振り返ると、そこには変わらず楽しそうに食事を続けるグループ。 けど何かが物足りなかった。 …だからそんな悲しそうな目すんなって。 「…それじゃ行ってくるね」 「うん、気をつけてナ」 2200時。サーニャが哨戒任務に出撃して行った。 いつもの荷物に加えて大きめの水筒に、リーネに作ってもらった茶菓子の入ったウエストポーチ。 まるでピクニックにでも行くかのような重装備をがちゃがちゃと揺らして駆けて行く。 「転ぶなよー?」 「うんー」 小さな声が廊下を遠ざかって、曲がり角に消えるのを見送った後、自室に戻る。 「さて…と」 小さく伸びをする。 ネウロイ予報も観測されてない間は暇なもんだ。 夜間待機要員がただの暇人に変わる。 ベッドに飛び込んでごろごろ転がる謎の行動。 (私も一緒に行きゃ良かったかナ…) 無性にこの基地から抜け出したい気分だった。 理由はわかってるようでよくわからない。…なんかモヤモヤする。 けど一緒に行かなかったのは多分、待ってるから。 ちゃんと謝りたかったから。 (…来たかな) 集中して魔法力を高めて、耳と尻尾がぴょこんと生える。 私の『ちょっと先の未来を見る魔法』で来訪者が来るのが視えた。 こんこん、と控えめなノックの音。 ちょっとだけ心を落ち着けて耳と尻尾を引っ込めた。 「あの、エイラさん、入ってもいいですか?」 「…どうぞー」 うつぶせの状態のまま少しくぐもった声で返事をする。 がちゃりとドアが開く音を聞いてから飛び起きる。 辛気臭い顔のミヤフジが部屋に入ってきた。 もし耳と尻尾が生えてたら、きっと見事なまでに垂れてしまっていると思う。 ファーストインパクトだけでもう3:7で負けてる感じな私。 今朝はいつものミヤフジらしく元気いっぱいだったのに。 こいつをこんなにしてしまったのはきっと私。 だから、元のミヤフジに戻してあげるのもきっと私の役目なんだ。 「元気ないぞミヤフジー!」 いつもの口調でまずはジャブ。 「あ、うん…」 ノーダメージ。先制パンチ失敗。 一気に場が気まずくなってしまった。 一瞬魔法を使ってしまおうかとも考えたけどそれだけはダメだと思い直す。 ちゃんとミヤフジと向き合うんだ。 「ま、まぁ立ち話もなんだし座ったらどうだ?」 「うん…」 入口で立ったままのパジャマ姿のミヤフジに私の隣のベッドを示す。 とてとてと、少し緊張したようにミヤフジが歩いてきて、ぽふっっと控えめに飛び乗った。 (き、気まずい…) ミヤフジは何もしていないけど、この空気だけでじわじわと絞め殺されそう。 かちこちと時計の秒針が動く音だけが部屋に響いていた。 何か、何か喋らなきゃ。 「あ…」 「エイラさん」 結果。イニシアチブを取られた。 続きの言葉が出ないまま大口を開けた間抜けな格好になる。 「…あー、えーと、ハイ」 すっかり空気力に気圧されて、何故か敬語になってしまった。 うへぇ、ワタシカッコワルイ。 ミヤフジがうつむいたまま言葉を続けた。 「…えっと、エイラさんは、わたしの事、迷惑だと思ってますか?」 一言一言、言葉を選ぶように区切りながら言う。 変な喋り方だからか、いつものミヤフジらしくないなと思った。 「め、迷惑だなんて思ってねーよ、ただ…」 「ただ…?」 「…急に前と態度が露骨に変わったからさ、戸惑っただけだよ…」 「わ、わたし露骨に変ですか!?」 がばっと顔を起こして私の方を見てきた。…なんだか今にも泣きそうな顔。 けどそれも一瞬で、目が合うとすぐにまたうつむいてしまう。 「いや、変ってわけじゃないけど…なんつーか、ベタベタし過ぎってゆーか…」 「…やっぱり、迷惑なんですね…」 「そうは言ってねーだろ!」 つい、声を荒げてしまった。 うつむいたままのミヤフジの肩が、びくりと震えた。 「あ…ごめん」 「…」 またも気まずい沈黙。 数秒経って、先に口を開いたのは私だった。 「…私はさ、なんで私ばっか?って思ってるだけなんだよ」 「…エイラさんが好きだからです」 「いや、ミヤフジには沢山友達がいるじゃんか?リーネとか、ルッキーニとか…サーニャとか」 「…みんなの事は好きです。…でもエイラさんの事も好きだからです」 会話は噛み合ってるんだろうか。 ほんのちょっとだけ、ズレてるような気がする。 「じゃあ私ばっかにベタベタするのはあいつらに不公平なんじゃないか?」 「そうじゃないんです…そうじゃ…」 煮え切らない回答に、ついカチンときてしまった。 「わかんないよ!ハッキリ言ってくれないとわかんねーんだよ!!」 たぶん私に触発されてミヤフジも何かスイッチが入っちゃったんだと思う。 「エイラさんのことが好きだからです!」 顔を上げて、今までで一番の大声だった。 顔を真っ赤にして真っ直ぐ私を見つめるミヤフジ。 「だからそれは…」 「だって違うんだもん!みんなの好きと、エイラさんの好きは違うんだもん!!」 ミヤフジの両目から、耐えていたであろう涙がどっと溢れ出していた。 「…へ?」 「だって好きになっちゃったんだもん!エイラさんのことがすごくすごく好きなんだもん!!」 ぽろぽろと、ミヤフジの頬を伝って、涙が後から後から流れていく。 いつのまにか、こんなに水分を失って大丈夫なのか、と心配になるほどのシミがシーツにできていた。 「エイラさんといると嬉しいもん!エイラさんと喋ると楽しいもん!エイラさんがぎゅっ、てしてくれた時、幸せだったもん!!」 半分放心状態でミヤフジの慟哭を聞いていた。 意識を戻そうとするけど、頭と体はなかなか言うことを聞いてくれなかった。 なんとか気力を振り絞って声を出そうとする。 「…え…だって…女同士じゃん、か」 やっと出せたのは、掠れた声だった。 「だって、だって!!好きになっちゃったんだもん!…大好き…なんだもん…」 ふるふると、小さな肩が揺れていた。 「…エイ、ラ…ん、ひっく、好き…だもん…ひっく」 しゃくりをあげて私の事を好きだと言ってくれている女の子。 でもその『好き』は、私が考えていたものとはとてもかけ離れていて。 多分そのことで凄く凄く、悩んでいたんだと思う。 そりゃそうだよな。 自称占い師の私だって、こんな未来、予測できなかった。 もし予測できていたとしても、答えなんてそうそう出せるもんじゃない。 どっかのツンツンメガネの事を何度もからかっていたけれど、 渦中の人間はこんなに辛くて切ない気持ちだったんだ。 うん。大丈夫。 この苦しみを少しでも和らげてあげたいと思う。 この痛みを少しでも分かち合いたいと思う。 迷惑なんかじゃないさ。 だってお互いの気持ちが同じなら、導き出される未来はひとつしか無いんだから。 うつむいて震えるミヤフジに手を伸ばす。 手が肩に触れると、びくんと大きくその小さな背中が跳ねた。 「ごめんなミヤフジ」 その言葉を聞くと反射的にか、ベッドの隅までミヤフジが後ずさった。 「…いやです…聞きたくないです…!」 馬鹿だなぁ、ミヤフジ。 違うんだよ、その『ごめん』じゃないんだ。 逃げたミヤフジを追いかけて、涙の池を越える。 まだ逃げようとするミヤフジを、少し強引に抱き寄せた。 「…エイラ…さ…」 「ごめんな、すごく苦しかったんだろ?」 気づいてあげられなくて。 「ごめんな、すごく痛かったんだろ?」 その小さな胸の奥が。 「エイラさん…!」 「私の事なら心配しなくていいよ、迷惑なんかじゃないからさ」 「エイラさん…エイラさん…!」 「うん」 「…好きです、大好きです…」 「うん、私もミヤフジのことが好き」 表面上は落ち着いてるように見えるけど、実は限界だった。 心臓はありえない速さで音を立てて、自分じゃ見えないけど、たぶん顔はひどく赤かったと思う。 もしかしたらミヤフジを抱きしめてた腕もブルブル震えてたのかもしんない。 うーわ、ワタシカッコワルイ。 そんなわけで、言いたい事を言い終わった途端、 私の体を支えてた気力が一気に抜けちゃって、 視界が暗転した。 「う、あー…?」 目が覚めた。なんかすごく頭が痛い。 天井の電球の光が眩しくて、目を細めた。 (あれ…電気つけたまま寝たんだっけ…?) 意識が混乱してて、まだ頭が本調子じゃないらしい。 徐々に覚醒していくにつれて、頭上に誰かいることに気づく。 「気がつきました?」 …ミヤフジだった。 「…おはよ」 「おはようございます、でもまだ夜ですよ」 …たぶん恥ずかしくて失神、略して恥ずか失神しちゃって今まで寝てたんだろう。 ちょっとどんな事を言ったのか脳内ページをスクロールして思い出そうとした。 …ダメだ。 多分私の人生で今の所恥ずかしいセリフナンバー1受賞なんて余裕なんだろう。 思い出したらまた顔が熱くなってきた。 「エイラさん、真っ赤になっちゃって、かわいい」 「…ミヤフジだって顔、赤いぞ」 とりあえず反撃としてほっぺたをむにむにしておく。 「いひゃい、いひゃいれすよエイラひゃん」 「だーめー。まだやめないー」 あーナニコレ。超甘い。 凄く恥ずかしいんだけど、同じくらい凄く居心地がいい。 しばらく二人で笑いあった後、頬をつねるをやめて起き上がった。 ミヤフジと向かい合う状態になる。 「…えへへ…なんだか恥ずかしいですね」 「…言うなよなー。私だって意識してないとまた倒れちゃいそうなんだからサ」 「そうは見えませんけどー?」 なんとなく、ミヤフジが部屋に来てからの違和感の正体がわかった気がした。 「…敬語」 「え?」 「お前今敬語話してるだろー」 「えと…」 「夕食前までは普通に喋ってたじゃんか。なんでそんな余所余所しいんだよ」 「…だって、嫌われちゃったと思ったから…」 まぁ、そんな事だろうと思った。 「ひゃん!?」 まごまごしてるミヤフジをさっと抱き寄せる。 やばいなー…なんか手馴れてきてる気がする。 「いーの。もうそんな肩肘張らなくたってさ。そんな言葉遣いだと調子狂うし」 「…うん」 すぐにいつもの口調に戻るミヤフジ。愛いやつめ。 「ねぇエイラさん」 「んー?」 「ぎゅってして」 「してるじゃんかー」 「もっとぎゅーってして」 ああもう可愛いなぁ。 注文に応えてぎゅーっとしてあげる。 「んっ…」 ミヤフジが色っぽい声を出した。 ヤメテヤメテ。そんな声出されたら変な気分になっちゃうじゃん。 「…ね、エイラさん」 「今度はなんだー?」 現金な奴だなぁミヤフジ。 こういう関係になったからって急に我侭すぎやしないかー? 「…えと…」 「ん?」 「…ちゅー、して?」 「んがっ!?」 いきなりちゅーですか!?それはあれですか!マウストゥマウスのちゅーですか!? こういう関係になったからって急に大胆すぎやしませんかミヤフジさん!! お顔が真っ赤ですよ!!多分私も真っ赤だろうけど!! 「…んっ」 はやく、とでも言いたげに目を閉じて口を突き出してくるミヤフジ。 いやいやいや!こういうことはケッコンしてからっていうか!? まだ手も繋いだ事もないのに!?いや繋いだっけ!?夜間飛行の時に繋いだっけ!? ヤバイヤバイヤバイ。 私今頭から湯気出てるんじゃないだろうか。 ううう…こ、こうなったら覚悟を決めるしかねー!女は度胸!! 「…きょ、今日だけだかんな…ホント今日だけだかんな…?」 声を出さずにこくりと小さく頷くミヤフジ。 生唾をごくりと飲み込んで、乾いた唇を舐め、改めてミヤフジの顔を正面に据えた。 祖国の父さん、母さん、エイラはこんな破廉恥な娘になってしまいました。ごめんなさい。 とにかく心の中で北西に3回ほど土下座してからゆっくりと顔を近づけ 「はいはいはーーーい!ストップストップ!!」 「何やってんのバカハルトー!?」 鍵も掛かってないドアを蹴破って黒い悪魔が乱入してきた。 「バカとは失敬な。あんたたちが一線を越えようとしてたからそれを阻止しようとですね」 「それが大メーワクなの!空気読めよー!!」 「は、ハハハハルトマンさん?」 いきなりの闖入者に混乱しつつもミヤフジがなんとか口を開く。 「い、いつからドアの外にいらっしゃったんですか…?」 「いい質問だね宮藤軍曹。ウオッホン」 もったいぶって似合いもしない咳払いをするハルトマン。 似合わない上に無性に腹が立つ。 「えぇーと、確かエイラの『そうは言ってねーだろ!』のあたりから…」 「ほとんど全部聞いてたんじゃないか!!」 「あうあああああああ……」 気づかなかった悔しさよりも人生恥ずかしいセリフナンバー1受賞作品をまるまる聞かれてしまったショックで顔から本気で火が出そうだ。 ミヤフジと二人してベッドの上で正座してうつむくしかない。 「大丈夫だいじょーぶ、みんなにはヒミツにしとくから」 どこまで信用できたものか。 こいつの飄々とした性格は同郷のバルクホルン大尉やミーナ中佐には及ばずとも、つるんでいる私はよく知っている。 「ここにウィッチの掟がありま〜す。この第3条〜ウィッチはチッスは厳禁〜」 「聞いたことねーよそんなの!」 「かくいう私も驚きを禁じ得ませ〜ん。でもダメなものはダメなので〜す」 「く、口と口のちゅーがダメなんですか?」 諦めきれないのか、ミヤフジが質問する。 かわいいなぁ。そんなにちゅーしてもらいたかったのかなぁ。 「口と口は当然ダメでーす!ほっぺは…う〜んいけそうな気もするけどNGとの裁定が出ました!」 「嘘くせー!?」 「あ、でもおでこはアリだそうです!!よかったね♪」 「よかったね♪じゃ、ねええええええええ!!」 ふっ、と本日2度目の暗転。 怒りすぎたのか恥ずかしすぎたのか、テンションが上がりすぎてまたも失神してしまったようだった。 「うう…黒い悪魔め……ッはッ!?」 最悪の目覚めだった。 幸せの絶頂から一気に地獄の一丁目まで突き落とされたような、そんな朝。 むくりとベッドから起き上がって、寝癖で外はねのひどい頭を掻く。 「夢…だったのかなぁ」 夢だとしたら私は今日どんな顔をしてミヤフジに会えばいいんだろう。 まともに顔が見られないような気がする。いや、見られるわけがない。 あととりあえずハルトマンはぶっておこう。うん。 「はぁ…」 朝一番の大きなため息。 そのときこんこん、と控えめなノックの音。 あぁ、何度も聞いた覚えがある。私が今一番会いたくて、会いたくない人。 がちゃりとドアを開けて既に起き上がってる私を見つけると、朝一番の笑顔を見せてくれた。 気恥ずかしさに、目を逸らしてしまったけど、もうあいつは私の事を疑ったりはしないんだろうな。 たたた、と小走りして、私に向かって小さくジャンプしてきた。 危なげなく受け止めたものの、反動で彼女にに押し倒された形になる。 「おはよう!エイラさん」 「おはよ、ミヤフジ」 そう言ってそのままでこちゅーされた。 こういう関係になったからって、急に大胆すぎやしませんかミヤフジさん? メモ:本当に口外してなかったからデコピンで許しておいた。