エイラ好き好きよしこ暴走SS 1と2の間というかよしこ視点の裏のお話 なんか恐ろしく長くなってしまいました… 「宮藤ィッ!!左ががら空きだぞっ!!」 「は、はいっ!!」 「何をやっている宮藤!!腰が入っとらん!!」 「は、はいぃぃぃ!!」 「まだわからんのか宮藤!?貴様それでも扶桑の撫子かッ!!」 「わかりませ…いえ、頑張ります!!!」 今日も坂本さんにたくさん怒られた。 ここ最近の訓練はいつにも増して散々な結果に終わっていた。 不調の理由なんて自分でもちゃんとわかってる。 四六時中あの人の事ばかり考えてしまって他の事に手がつかない状態なのだ。 わたしはエイラさんの事が好き。 でも好き過ぎて周りがぜんぜん見えなくなっている。 …恋って苦しいんだな。 「宮藤、ちょっと来い」 午後の訓練が終わると真っ先に坂本さんに呼び出された。 うう…今日は特に酷かったからなぁ…お説教1時間は覚悟しておかないと…。 「は、はいっ」 慌てて返事をして小走りで坂本さんの所へ駆けて行く。 「何で呼び出されたか自覚はしているな?」 「う…はい…」 「うむ。それなら良い。今後はちゃんと訓練に集中するように!厳重注意だ」 拍子抜けするほどすぐにお説教は終わってしまった。 「了解しました…」 「お前はやればできる奴なんだ。この私が買ってるんだから期待を裏切らないでくれよ?」 「…はい…」 言葉が胸に突き刺さる。 頑張ってはいる。 いるんだけどどうも心と体がうまく噛み合ってくれないんです。 「それから宮藤」 「は、はいっ!なんですか!?」 話は終わりだと思っていたので急に声を掛けられて口から心臓が飛び出るかと思った。 「シールドを張ってみろ。全力でだ」 「え…なんで…」 「いいから張れ。手加減するんじゃないぞ?」 真剣な坂本さんの表情に気圧される。 なんで平時にシールドを?これも訓練の一環なのかな? 不思議に思いながら魔法力を集中してその象徴である耳と尻尾を発現させた。 「はあッ!」 全力で、と言われたから手加減なしに極大シールドを展開する。 「ふむ…相変わらず信じられない程のでかさだな…」 この大きなシールドは密かなわたしの自慢だった。 坂本さんは、自分だけじゃなく、他の誰かも守りたいというわたしの強い思いがシールドに顕れたんだという。 シールドはわたしの守るという覚悟の顕れなのだ。 「え…っと、これでいいんですか?」 「あぁ、そのまま維持してくれ」 そう言ってわたしのシールドをまじまじと観察する坂本さん。 …健康診断…みたいなもの? 首をかしげていると坂本さんが口を開いた。 「…はぁ、まぁそんな事だろうとは思っていたが…」 「…?」 そう言いながら右手を掲げてノックをするように軽くシールドを叩いた。 パリン、とガラスが割れるような音が響いて、私の張ったシールドが粉々に砕け散った。 「…え…?」 信じられない光景だった。 ついこの前の戦闘では、エイラさんとサーニャちゃんの二人をネウロイのビームから守れていたのに。 「…ウィッチの魔法やシールドは、肉体的には言わずもがな、精神面でも硬度や威力が左右される、というのは説明したはずだが」 「…」 「お前が今、抱えている悩みが何かはわからんが、その悩みを解決しない限り戦闘に出す事はおろか、最悪国へ返す事になるかも知れん」 「…扶桑に…?」 みんなを守れないどころか、エイラさんと離れ離れになっちゃう…? 「…知られたくない悩みなら無理に話せとは言わん、だが出来る限りは協力してやるからな」 いつの間にかわたしは地面にへたり込んでいた。 肌に砂利が突き刺さって痛い。 「嫌な空模様だな…降り出す前に基地に戻るんだぞ」 そう言って立ち去る坂本さん。 …恋って本当に辛くて苦しい。 わたしも空も、今にも泣き出しそうだった。 「どうしたのヨシカー!びしょ濡れだよー!?」 「水もしたたるいい女…って冗談言ってる場合じゃないな…ホレ拭いてやるよ」 基地に入るなりルッキーニちゃんとシャーリーさんが心配して駆けつけてくれた。 シャーリーさんがわしわしと頭を拭いてくれる。 「あ、ありがとう」 結局濡れて帰ってきた。 服の中までぐっしょり濡れて気持ち悪い。 「あーもうこれは風呂に入っちまった方がいいんじゃないか?」 「おふろおっふろー♪もっかい入っちゃおうかシャーリー?」 「あんま何回も入ってるとふやけちまうぞ〜?」 楽しそうに話すシャーリーさんとルッキーニちゃん。 いいなぁ…わたしもこんな風に… 「うわっ!?ズブ濡れで何やってんだよミヤフジー」 「芳佳ちゃん…風邪ひくよ…?」 突然後ろから声を掛けられてびくりと身を震わせた。 慌てて振り向くとエイラさんとサーニャちゃんが怪訝な顔でわたしを見つめていた。 サーニャちゃんは哨戒任務前だから今まで寝てたんだと思う。 エイラさんは…基本的に夜間待機要員と聞いていたから今日顔を合わせるのはこれが初めてだ。 あう…嬉しくて顔がにやけちゃう。 さっきまで沈んでたのにほんと現金だなぁ、わたし。 「ちょ、ちょっと忘れ物しちゃって…えへへ」 「なにニヤけてんだお前…風呂行くところだけど来るか?」 お、お風呂? 何度かわたしの方から誘ったことはあるけど、誘われたのは初めてだ。 どうしよう、すごく嬉しい。 「丁度良いじゃん。行って来いよ宮藤」 シャーリーさんたちも勧めてくる。 ここは素直について行ったほうがよさそうだ。 エイラさんとおふろ…ああだめだ、にやにやが止まらない。 「…服…濡れたままだけど大丈夫?」 サーニャちゃんが心配そうにわたしのびしょ濡れの服を見ていた。 確かにお風呂で温まっても、着る服がこれじゃ結局体が冷えてしまう。 「あ、わたし、すぐとってくるから…」 「いーよ、私の換えの服貸してやるからサ」 急いで部屋に戻ろうとするとエイラさんが提案してくる。 え、えー!? 「そんなカッコでウロウロしてたら風邪引いちまうし。さ、行くぞー風呂だ風呂」 エイラさんに腕をつかまれて強引に引っ張られる形で浴場に連行された。 ま、まだ心の準備がー! 自室のベッドに寝転がって天井を見上げていた。 お風呂で十分温まって体の芯からぽかぽかと暖かい。 けど、暖かいのはきっとお風呂のせいだけじゃないと思った。 視線を下げて改めて自分が今身につけている服を見る。 左胸に星のワンポイントがついた、ちょっとぶかぶかの薄い水色のパーカー。 …結局エイラさんに貸してもらった。 ころんと寝返りを打って、服のにおいを胸いっぱいに吸い込んだ。 洗剤の匂いと、クローゼットの匂いと、たぶん、エイラさんの匂い。 頭がくらくらした。 「いいにおい…」 体がカーッと熱くなってくる。 服のこともだけど、目を瞑ると勝手に浮かんでくるお風呂のエイラさんもやばかった。 (うああ…目の毒だよぅ…これ…) 白い肌とか…さらさらの銀髪とか…サーニャちゃんの頭を洗ってあげてた時の楽しそうな笑顔とか…。 すらっとした長い手足とか…触り心地のよさそうな…む、胸とか…ってわー!?わー!? 何考えてんのわたし!行きすぎだよ!! 「もー!もーっ!!だめだよー!!何考えてるのわたしのえっちー!!」 興奮してベッドをごろごろ往復したり、枕をばしばし叩いたり。 ああ…わたし本当に変だ。 「…あ、あのぅ、よしかちゃん…?」 「は、はひっ!?」 誰かに呼びかけられて我に返った。 いつの間にかリーネちゃんが部屋に入ってきていて、わたしを見ていた。 「リ、リリリリーネちゃん!?」 「あ、あの、勝手に入っちゃってごめんね、ノックしても返事が無いから寝ちゃってるのかと…」 ぜんぜん気づかなかった。 「あ、あははは…な、何か用事?」 「えっと、お夕食ができたから呼びに来たんだけど…」 「う、うん、着替えてからすぐ行くよ!」 「うん、じゃあ先行ってるね」 リーネちゃんがドアを閉めた。 み、見られた…。 数秒呆然としたあと、着替えなきゃ、と立ち上がる。 …着替えたくないな、と一瞬思ってしまった。 「宮藤ィッ!もっとよく狙えっ!!敵は止まってはくれないぞっ!!」 「は、はいっ!!」 次の日の訓練も、いい所なんて皆無だった。 空の訓練場に坂本さんの怒号が響く。 昨日の雨の影響が残っているのか、今日の空は鈍い灰色と薄い空色がマーブル模様のように混ざっていて、少し息苦しい感じがした。 ストライカーユニットもまるで水を吸ったように、心なしか重い気がする。 …焦っていた。 坂本さんの期待に応えたい。みんなを守りたい。まだ扶桑には帰りたくない。 でもそんな心に反して、体は言う事を聞いてくれなかった。 銃を支える腕が鉛のように重い。トリガーを引く指が思うように動かない。 結局今日もまた散々な結果に終わってしまった。 「お茶の時間ですわ!!」 訓練が終わるとペリーヌさんがそんな事を言い出していた。 空はもう雲も流れてしまって、快晴になろうとしている。 今日は風も涼しくて、確かにお茶会にはもってこいの天気かもしれない。 「この前のブルーベリーをジャムにして、タルトを焼いたんだよ。よしかちゃんも食べようよ」 と、リーネちゃんも乗り気だった。 「すごいなぁ、リーネちゃんってすごくお菓子作り上手いよね」 「えへへ…照れちゃうよ〜」 「宮藤さん!お菓子がメインじゃありませんのよ?あくまでお菓子はお茶を楽しむスパイスのひとつですわ」 「でもペリーヌさんもお菓子は嫌いじゃないでしょ?」 「それは…まぁ甘いものは嫌いじゃありませんけど…」 「まぁまぁ二人とも落ち着いて〜」 「では午後3時ごろにテラスに集合でよろしくて?もちろん誘いたい方がいれば連れて来て頂いても構いませんわ」 「はーい」 「うん」 そう言って大浴場で二人と別れたのがついさっき。 着替えも済んでさっぱりしたので約束どおりテラスへ向かって長い廊下を歩いていた。 お茶会は楽しみなんだけど、甘いものですぐ元気になってしまうなんて本当にわたしは現金な奴だ。 訓練内容を思い出してまたため息が出る。 頑張らなきゃ。 「よし!」 気合を入れて駆け出した。 「わっぷ!?」 「ウワッ!?」 と、突然曲がり角から現れた誰かにぶつかってしまった。 二人で尻餅をついてしまう。 「ご、ごめんなさい!!」 「ててて…なんだミヤフジかよー」 エイラさんだった。 「あ、あぁぁあ、ご、ごめんなさい…」 「いーよいーよいつものことだし。ミヤフジのことだからどうせ前しか見てなかったんだろうしサ。」 ししし、と歯を見せて笑うエイラさん。 「ううぅ…」 「ちゃんと周りを見て歩かないと転ぶぞ〜?」 「いひゃい、いひゃいよエイラひゃん」 むにーっと両頬をつねられた。 よくエイラさんには頬をつねられる。 エイラさんが言うには、わたしのほっぺたはぷにぷに柔らかくてつねり心地がいいとかなんとか。 喜んでいいんだか悲しんでいいんだかわからないけど、エイラさんにつねられるのは悪い気がしなかった。 …うーん…わたしってそういう趣味とかじゃないと思うんだけどな…。 「ふあ〜ぁ」 ようやく開放されるとエイラさんが大きなあくびをかみ締めた。 「大きいあくびだね」 「ん…さっき起きたとこだから」 必要な事とは言え、夜間待機というのも大変な仕事だ。 生活サイクルが普通とずれてしまって、肌とか荒れそうだな…。 あ、そうだ! 「ね、ねえエイラさん、今からテラスでお茶会があるんだけど一緒に行かない?」 お茶には目覚ましの効果があるって聞いたことがある。 ブルーベリータルトだって、目に良いから夜の業務の多いエイラさんにはぴったりだと思った。 「ん〜、今はお茶ってよりコーヒーの気分なんだよなー…」 「えー、行こうよ!リーネちゃんがね、ブルーベリーのタルトを焼いてくれたんだって!」 乗り気じゃないようだった。 それでもめずらしく食い下がるわたし。 「…悪いなミヤフジ。そういう優雅なお茶会ってのはちょっと性に合わないんだ」 「そ、そっか…性格ならしょうがないよね」 嫌がってる人をしつこく誘うのもどうかと思ったので、そこで諦めた。 「ん…まぁ、今日はコーヒーの気分だったってだけだからサ、また誘ってくれよな」 「う、うん…。あ、昨日は服、ありがとう!お洗濯して返すね!」 「お〜、いつでもいいよー」 そう言ってエイラさんは私に背を向けて手をひらひら振って歩いていく。 見えてるわけないんだけど、わたしも手を振り返して見送った。 「…しかちゃ…よしかちゃん!」 「へ!?わっ熱ちちっ!!」 鍋がいつのまにか沸騰していた。 「どうしたの?ぼーっとして…今日は訓練もお茶会もずっとそんな感じだったよ?」 「昨日もなんか元気なかったよねーヨシカ」 リーネちゃんが心配そうに覗き込んできた。 ルッキーニちゃんもサラダを盛り付ける手を止めて聞いてくる。 今日の料理当番はわたしとリーネちゃんとルッキーニちゃんだった。 「あはは…なんでもないよ…ちょっと考え事」 笑ってごまかす。 まさか恋でいろいろ悩んでます、とは言えない。ましてや相手が相手なのだ。 ついでに言うとリーネちゃんもルッキーニちゃんも、その手の話題が好きそうな性格をしてるから、 きっと根掘り葉掘り聞かれてしまうに違いない。 うぅ…ごめんね二人とも…。 「ごめん…ちょっとお湯減っちゃったね」 「焦げ付いてないみたいだから、お水を足せば大丈夫だよ」 リーネちゃんがフォローしてくれる。 「リーネー、サラダできたよー!」 ルッキーニちゃんが自慢げに自分の作品を見せた。 「うん、シチューもあとはホワイトソース入れて煮込むだけだから私が見ておくね。二人はみんなを呼んできてくれる?」 「はいはーい!」 「うん、わかった」 割烹着を壁にかけて厨房を出ると、気の早いハルトマンさんが食堂に入ってきたところだった。 「にひひ〜♪いっちばーん」 「わ、ハルトマンさん早いね」 「ま、とーぜんだよ。あ、リーネー!私のぶんお肉多目にしてよねー!」 「あ!エーリカずるーい!!サラダもあたしが作ったんだから全部食べてよね!!」 「あはは…」 ハルトマンさんは本当に要領がいいというか…まぁ憎めない性格だけど。 「ルッキーニちゃん、行こう」 「あ、待ってよヨシカー!」 坂本さんとミーナ中佐に夕食の時間を伝えた後、エイラさんの部屋へ向かったけど、部屋はもぬけの空だった。 ということはサーニャちゃんの部屋にいるんだろうな、となんとなく思ってサーニャちゃんの部屋に向かった。 ノックしてドアを開ける。 「エイラさん、サーニャちゃん、夕食の時間だよ!」 必ずエイラさんがここにいる、という保障も無いのに名前を呼んだ。 結果的にはいたんだけど、ちょっと早まりすぎたかな? 「お、おうミヤフジ」 「ありがとう芳佳ちゃん、今行くね」 サーニャちゃんが手に持った水筒をテーブルの上に置いて、小走りで駆けて来た。 「エイラさんも早く行かないと冷めちゃうよ」 まだベッドに座ったままのエイラさんに言う。 「ん、ちょっと部屋に忘れ物しちゃってさ。取ってから行くからサーニャと先行っててくれよ」 「あ、うん…」 食堂まで一緒に歩いていけると思っていたのでちょっと残念だった。 …もしかして避けられてるのかな…。 胸の奥がずきりと痛む。 「行こう、芳佳ちゃん」 「う、うん」 サーニャちゃんに手をくい、と引かれて、部屋を後にした。 てくてく、とサーニャちゃんと長い廊下を歩いた。 「今日はクリームシチューなんだよ。あれわたし大好きだなぁ、今度リーネちゃんにレシピ教わろうかな」 「…芳佳ちゃん、シチュー好きなの?」 「うん、扶桑じゃ汁物を主菜にするのは珍しいんだけど、シチューは好きだなぁ」 サーニャちゃんとはこの前の戦闘以来、すごく仲良くなれた気がする。 活動時間が違いすぎて、食事を一緒にとれるのはおやつの時間と夕食と、たまに朝食の時くらいだったので今のうちにたくさん喋っておこうと思った。 「芳佳ちゃん、ボルシチって、知ってる?」 「えー?なぁにそれ」 「オラーシャで言うシチューみたいなもの…赤茶色のスープにサワークリームを乗せて食べるの…」 「へぇー、おいしそうだね」 「今度私も夕食作るね…お母様から教えてもらったレシピなの」 表情の変化がわかりにくいサーニャちゃんだけど、その時の顔は恥ずかしそうな、得意げなような、くすぐったい表情だった。 「うん!楽しみにしてるね」 本当に楽しみだった。 ウィッチーズ隊は、いろんな国から人が集まってきているから、いろんな国の料理が食べれて食事の時間が楽しみなのだ。 …ときどき予想もしない料理が出てきてびっくりするけど。 「…ねぇ芳佳ちゃん」 不意にサーニャちゃんに名前を呼ばれた。 「うん、なに?サーニャちゃん」 「…エイラと喧嘩しないでね」 「え…!」 心臓が止まるかと思った。 別に喧嘩なんてしてないけれど、なんだか今日はすれ違いが多かったから、余計にびっくりした。 「…私ね、芳佳ちゃんのことが大好き。エイラのことも大好き」 サーニャちゃんの左手が、わたしの右手をきゅっと掴んできた。 高めのサーニャちゃんの体温がじわっと伝わってきて、心が落ち着く。 「だから二人が仲良くしてくれると、すごく嬉しいから」 「…うん」 ありがとう、サーニャちゃん。 でもごめん。 わたしがエイラさんを好きな気持ちは、普通じゃないんだ。 いつの間にか、食堂は目の前だった。 談笑で包まれる食堂。 「リーネちゃん、今日のブルーベリータルト絶品だったよー」 「えぇ〜!!おやつにそんなもの食べたのぉ!?いいニャ〜…」 「ルッキーニちゃんもサーニャちゃんも寝てたから…まだ冷蔵庫に残ってるからデザートに出してあげるね」 「やった!」 「…楽しみ…」 食事の席は特に決まっていない。 各々適当に分かれて食べるのが暗黙のルールになっていた。 わたしとリーネちゃんとルッキーニちゃんとサーニャちゃんのグループ。 坂本さんとミーナ中佐とペリーヌさんのグループ。 シャーリーさんとバルクホルンさんのペア。 エイラさんとハルトマンさんのペア。 どのグループもお喋りに華を咲かせていた。 そんな中わたしは、お喋りに集中しながらも、ちらちらとテーブルの隅のほうを見てしまっていた。 エイラさんとハルトマンさん。 このツーショットは珍しい気がする。 (どんな話してるのかな…) …いけないいけない。 あんまり盗み見るのは失礼だし、今は4人で喋っているんだからこっちに集中しないと。 慌てて意識を会話に戻したけれど…なんでだろうな、どうしてもまたエイラさんの方を見てしまった。 ふとエイラさんと目が合う。 びっくりしたけれど、わたしの方を(もしかしたらサーニャちゃんの方かもしれないけど)見てくれたのが嬉しくて、自然と笑顔になった。 (えへへ…手、振っちゃおうかな) そう思って手を上げようとしたら、ぷいと目を逸らされてしまう。 え……。 じろじろ見られて迷惑だったんだろうか。 それともわたしの事なんてなんとも思ってないんだろうか。 そう思うと胸が苦しくてたまらなかった。 上げかけた手をぎゅっと握ってうつむいてしまう。 「…ねーヨシカ?」 ルッキーニちゃんに名前を呼ばれて我に返った。 「え…えと、何の話だっけ?あはは」 慌てて平静を装って笑ってごまかす。 「カウハバ基地の話だよ〜よしかちゃん」 やばい、まったく聞いていなかった。 それくらい重症だった。 自室のベッドに寝転がって天井を見上げていた。 昨日と同じような状況。 でも気分はまったく正反対だった。 ごろんと寝返りを打つと、テーブルの上に畳まれたパーカーが見えた。 「…今朝は雲ってたから…洗濯できなかったな…」 昨日はあのパーカーを着て、一人で浮かれてたんだと思うと複雑な気持ちになる。 恥ずかしい。痛々しい。 今更ながら後悔して、一人で泣きたい気分だった。 「はぁ…」 ため息が洩れる。今日何回目だったろう。 その時、こんこんと、ドアがノックされた。 「は、はい!!」 こんな夜更けに誰だろう。 慌てて飛び起きて、ドアのほうを見た。 「あ、あ〜宮藤、まだ起きてるか?」 坂本さんの声だった。 「あ、はい。起きてます。」 「少し話がある。入ってもいいか?」 話がある。 心当たりだらけだった。 緊張してベッドの上で姿勢を正して正座する。 「うむ、夜遅くにすまんな。…自分の部屋なんだから楽にしていいぞ」 「は、はい…」 そうは言われたものの、体はガチガチのままだった。 坂本さんが口を開く。 「…まだ悩みは解決していないようだな、宮藤」 「…はい」 「まぁ一日やそこらで解決するような悩みなら世話はないんだがな…」 「…」 言葉が出ない。 坂本さんにこんなに心配をかけてしまっている自分が情けなかった。 このままスランプを抜け出せなければ、戦力外としていずれ扶桑に戻されてしまうかもしれない。 それだけは嫌だったけど、どうすればいいのかわからなかった。 抜け出す方法が思いつかなかった。 「…宮藤」 坂本さんがまた口を開いた。 「お前が今抱えている悩みは私には想像もつかん。人の悩みなんてそれこそ十人十色だからな。私では何の力になってやれないかもしれん」 「…」 「だがな、宮藤。お前は一人でじっと動かずに考え込むような奴ではなかったはずだろう?」 顔を上げて坂本さんの顔をまっすぐ見上げた。 「お前は試験で問題がわからなくても、とにかくダメもとでも答えを書き込むような奴だっただろう?」 「坂本さん…」 言われて気づく。 確かにいつまでもうじうじと悩みを抱え込むのは、わたしらしくない。 「赤城がネウロイに襲われた時、お前は何をした?ストライカーユニットを見つけたとき、お前は何を思った?」 「わたしに…わたしにできることをしようと思いました」 「…いつものお前の目が戻ったな。それでこそ私が見込んだ宮藤芳佳だ!」 「…ありがとうございます!坂本さん!」 もやもやした気分が晴れていく。 坂本さんの言葉のひとつひとつが、わたしに勇気をくれた。 そうだ。ほんのちょっと勇気を出せばいいんだ。 「思う存分飛んで来い、宮藤!当たって砕けろだ!!」 「はいっ!!」 気づいた時には足が勝手に走り出していた。 もう、迷わないでぶつかろう。 精一杯の気持ちを伝えよう。 目指す場所はあの人の部屋。 私の思いをぜんぶ打ち明けよう。 拒絶されるかもしれない。 避けられるかもしれない。 でももう一人で思い悩むのは限界だった。 だから伝えよう。 貴方の事が好きです、って。