よ×エSS6 エイラ視点 「な、なにしてんだよミヤフジ……」 「何って……服を脱いでるんだけど……」 ミヤフジの小さな手が白い水兵服をたくし上げた。 あっと言う間もなく、扶桑海軍謹製ボディスーツ一枚の姿になるミヤフジ。 それから「んしょ」と頭に引っかかった水兵服を外して、子犬みたいに顔をぷるぷると振って乱れかけた髪を直した。 ミヤフジの凹凸の少ないボディラインが露わになる。 肩幅狭いな、とか、腕は細いけど太ももは割と肉付きがいいな、とか、あんなところにホクロ発見、とか変に意識して見てしまう。 「……そ、そんなに見られると……その、恥ずかしいよ……」 ミヤフジがもじもじと脱いだ水兵服で体を隠して、上目遣いで言う。 「ゴ、ゴメン!」 慌てて目を逸らして後ろを向いた。 ……何だ?どういう状況なんだ?これって。 気がついたら目の前でミヤフジがもじもじ恥ずかしがりながら風呂でもないのにストリップを始めていた……あ、頭悪い……。 何をどうしたらこういう状況になるのかわからない。 というかそ、そういう事はまだ早いというか、私はまだ16歳でお前はまだ15歳で、キスならともかくそ、そういう事はホントまだ……。 こんな夢みたいな状況……いやいや、夢だろこれ!? ……とにかく私は混乱していた。 そんな私をお構い無しに、後ろからふわりと抱きつかれる。 「ひああっ!?」 「エイラさんも脱いでくれなきゃー」 さわさわと私の体をまさぐって、制服のボタンを探すミヤフジ。 後ろから抱き付くと前面にあるボタンが見えない。 「んっ……ミ、ミヤフ、ジッ……やめ……」 見えないものを手探りで探してるもんだから変なところまで撫でられて、つい変な声が出てしまった。 「はっ、はーっ……」 自分の声に何か艶っぽいものが混じるのを感じて、顔が熱くなる。 ホントどうしちゃったんだよミヤフジ…なんでこんな…。 「……どうしよう、エイラさんすごく可愛いよぅ……」 「ひぅ……」 ボタンを外す手を止めるときゅっと抱きしめられる。 体が締め付けられる感覚に息が漏れた。 脱ぎかけの私が脱ぎかけのミヤフジに抱きしめられて赤い顔して変な声出してる。 何だコレ。ホント何だコレ。 あたま、おかしくなる。 「……エイラさん……」 不意に呼ばれて振り返るとミヤフジがせつなそうな顔で私を見上げていた。 うあああああああああ……。 ……天井が見える。ミヤフジは見えない。 「……やっぱ夢じゃねーか!」 自分自身にツッコミを入れながら飛び起きた。 なんて夢見てるんだ!?よ、欲求不満とかなのか私!? 起き抜けから恥ずかしさと自己嫌悪で手で顔を覆いながらごろごろとベッドを転がる私。 「……んむぅ……すぅ……」 「んがっ!?」 サーニャの寝息が聞こえてはっと我に返る。 顔を覆っている指の間からそっと覗くと、むにゃむにゃと口を動かすサーニャが隣で布団に丸まっていた。 酷い、酷すぎる。 サーニャが寝てる隣であんなけしからん夢とか見るとかもうどうかしてるよ。 できるだけ静かに頭を抱えてごろごろばたばたする私。器用だな私。 ミヤフジとは毎日顔を合わせてるし、キスだって……その、何回もしてる。 それで十分だろ!幸せだろ私!これ以上何を望むってんだよバカ! 私のドエロ!変態!派遣軍人!!…これじゃアホネンの奴と変わりねーっつの!! ……空しいな。 (ああもうこんな事は忘れて寝るに限る!!) ひとしきりサーニャを起こさないように細心の注意を払ってどたばたしたあと無理矢理寝ようと目を瞑った。 ……また変な夢とか見ちゃったらどうしよう……ちょっと期待したけど一時の気の迷いだ。忘れた気になって寝転がった。 きぃ、ぱたん。 控えめに、ドアが閉まる音がした。 何だ?と起き上がってみると何やら険しい表情のルッキーニが勝手に私の部屋に入ってきていた。 ミヤフジかなー?と一瞬期待したけれど残念大外れ。 ……まぁ今顔を合わせてもマトモに顔なんて見れないだろうけどさ。 「……!……しーっ!」 口元に人差し指を当てて「騒ぐな」のジェスチャー。 手に何か紺色の布みたいな物を持っている。…何だあれ? 何だ、また何かやらかしたのか?というか勝手に人の部屋に入って来ておいて何様のつもりなんだ、と頬を膨らませる。 ……いやサーニャはいいよ。ミヤフジもウェルカムだよ。他の皆もまぁよしとする。 けど隊内のトラブルメーカーたるルッキーニとハルトマンだけは絶対にノゥ!! 「……ササササ……チラッ」 ついさっきの夢のせいか若干脳内テンション高めにむくれる私を意にも介さず窓際まで移動するルッキーニ。 ……いちいち行動を擬音で口に出すあたりがイライラを加速させる。 というか追いかけられてるなら人の部屋に入り込んだ時点で捕まったようなもんじゃないか。 第一ここは3階だ。いくら身軽なルッキーニだとしても 「そだっ!!」 「…うっ」 ……何か思いついてしまったらしい。 はいはいもう勝手にしてくれ。誰か来たとしても「寝てた」とでも言って知らぬ存ぜぬで通そう。 ルッキーニは得意げな顔してこっちに向かってきて私のタイツを……って 「あっ!コラ私の!!」 手を伸ばしたがもう遅かった。 私のタイツは不幸にもロマーニャの魔女の手中に納まった。 その魔女は身軽な動きで窓際まで駆けると、あろうことかそのタイツを使って雨樋を伝い下に下り始めたのだ。 ……ってショックで物語風の語りになってる場合じゃない。 返せ!と叫びたいものの、気持ち良さそうに眠るサーニャを起こしてしまいそうなので叫べない。 追いかけようにもタイツを取られたまんまじゃズボン丸出しになって恥ずかしい。 うう……みんなどういう神経してんだ……。 だ、大事な所を隠すものがズボン一枚とか不安になったりしないんだろうか。 どうしようかとオロオロしているとあるものが目に留まる。 「……う……」 明け方帰ってきたサーニャが脱ぎ散らかして私が畳んだ黒タイツ。 ……確かにズボンは隠せるけど……勝手に履くのはマズイ……いやでも背に腹は……うう。 ……結局履いてしまった。 うう、サーニャゴメン……すぐ洗って返すから……。 ルッキーニを探して走っていたと思われるシャーリーとバルクホルン大尉が私を見つけて声をかけてくる。 「ルッキーニは!?」 「し、下に逃げた」 「追うぞっ!!」 大尉二人は奴を追う事で頭が一杯のようで、私が履いているサーニャのタイツには気づいてないみたいだ。 ……ばれませんように……。 二人を追いかけて走り出したけどタイツの肌触りがいつもと違ってなんか妙な気分になる。 (くそ、ルッキーニの奴め……!) 階段を1段飛ばしで駆け下りて1階に着くと廊下のど真ん中に降り立つルッキーニが見えた。 「いたぞ!」 「返せゴラァー!!」 バルクホルン大尉の声に私とシャーリーも走る。 見るとルッキーニを挟んで向こう側からも誰かが向かってきているようだ。 このまま挟み撃ちにしてとっつかまえてやる! 「ウニャッ!?う、うう……ど、泥棒じゃないよぉー!!」 言い訳しながら居住棟の出入り口に走り去るルッキーニ。 どう考えても泥棒だろ!なんで私のタイツ首に巻いてんだ! T字路まで辿りついて通用口を見回したけど人っ子一人いやしない。くそっ!どっちに逃げやがったんだ!? 通用口を睨みつける私達の視線をちっちゃな後ろ姿が塞いだ。 「……ミ、ミヤフジか?」 「エイラさん!?……起きてたの?」 「う、うん、ついさっき……」 だ、だめだ……さっきの夢がちらついて恥ずかしくてマトモに顔が見られない。 なんで裾押さえてもじもじ膝を擦り合わせてるんだよミヤフジ……そんな仕草、まるきりさっきの夢と同じじゃないか。 ……そう言えばどうして少佐の上着着てるんだろう。 だぶだぶの袖とか、太ももあたりまで隠れる裾とか、なんだかいつもと違って新鮮でかわいい。 「お待ちなさいこの泥棒猫ー!」 「うおおルッキーニ!あたしは悲しいぞー!」 もじもじそわそわしてる私達二人なんかには目もくれずにみんな中庭まで追いかけていく。 「と、とにかく行こう!」 「ま、待ってエイラさん……」 「何がしたいんだよルッキーニは……」 「……さ、さぁ……?」 聞いた情報を整理するとこうなる。 ルッキーニが何故かペリーヌのズボンを盗んで履き、ついでにミヤフジの服にも手をかけようとしたが、ペリーヌの気配に気づき放置して食堂へ。 食堂でそれがばれて、そのどさくさに紛れてミヤフジの服を強奪し、逃走。 道中私のタイツも強奪(みんなには言ってない情報だが)して今に至る……と。 ……頭痛くなってきた。ホント何がしたいんだ。 「とにかく早く捕まえて服を取り返さないと……その、スースーして…」 「うえぇぇっ!?」 よく考えてみればミヤフジはルッキーニに服を盗られているんだ。 ということはつまり、ミヤフジが今着ている少佐の服の下は…。 「わ、わぁあああ!?エイラさん鼻血鼻血!!」 「うおおおああああああ……」 「想像しちゃダメー!エイラさんのえっち!」 「む、無茶言うなよ……」 真っ赤になったミヤフジが裾を引っ張りながら空いた手でぽかぽか軽く殴ってくる。超かわいい。 やばい、夢の事もあるんだろうけど変に意識してしまって興奮してきた。 それと同時に「服くらい、私が貸してやるのに……」と微妙にムカムカする。 ……ダメだな。やっぱりどうしてもミヤフジの事ばかり考えてしまう。今はルッキーニを捕まえる事を考えないと。 鼻に詰め物をしてルッキーニを探す。……ちょっと間抜けだ。 「こっちの秘密基地にもいないみたいだな……ったく、どこ行っちゃったんだよルッキーニ……」 みんなに追いついたところで、ルッキーニと特に仲が良いシャーリーが寂しそうにうつむいていた。 まったく保護者にこんなに心配かけてルッキーニは一体どこで何をしてるんだよ……。 ウウウウウウウウ…… ルッキーニを探してうろうろと中庭を彷徨っていると物騒なサイレンが基地内に鳴り響いた。 「け、警報!?」 「敵襲ですか!?」 予報ではネウロイが活動を開始するのはまだ先の事だと聞いていたけど、 出現間隔が狭まったりぱったりと現れなくなったりと最近は不規則すぎる。 忙しい時に限って嬉々として現れるネウロイに舌打ちをする。 「出撃準備だ!」 バルクホルン大尉の一声で気持ちを切り替えて、全員ハンガーに引き返した。 ストライカーユニットに足を通して定着させ、魔力を顕現させる。 きゅっと脚を締め付けるいつもと違う感触につい息が漏れる。 「……っんふ……やっぱり、なんかいつもと違うな……」 サーニャのタイツを履いてるせいかどうも落ち着かない。 やっぱりいつもの私のタイツじゃないと……うぅ、ルッキーニめ……。 「さ、坂本さん!わたし……はいてません!」 「わ、わたくしもちょっとスケスケで……その……」 「あっはっはっは!問題無い!任務だ任務!空では誰も見ていない!!」 思わずまた鼻血を噴きそうな発言が遠くから聞こえてくる。 ごめんなさい少佐、たぶん私がガン見してしまいそうです……。 「……何蹲ってるんだエイラ?」 「な、なんでもない」 シャーリーに不思議そうな目を向けられる。 さすがにミヤフジの丸出しの股間を想像して鼻血噴いてしまいそうですとは口が裂けても言えない。 もう私はただの変態に成り下がってしまったんだろうか……思い返すと泣けてくる。 「……私も行きます……」 さっきからテンションの浮き沈みが激しい私にトドメを刺すような声が聞こえた。 眠そうにゆったりとした、それでいて凛と存在感のあるよく通る声。 「うあぁ!?サ、サーニャ……ね、ねねねねね寝てなくてだ、大丈夫ナノカ?」 「あれ……エイラ、それ私のタイツ……」 一目でばれた。みんなの白い視線が突き刺さる。 「エイラお前……そういう趣味だったのか……」 「き、着てみたいと想像するのは自由ですけど実際着てしまうのはどうかと思いますわ!」 「無許可はいかんぞー。何事も了承を得てだな」 「そうだぞユーティライネン少尉!遠慮された私の身にもなれ!!」 うええぇぇー?お前らルッキーニと扱い違いすぎやしないかー……。 いや、発覚した途端取り押さえられて身ぐるみ剥がされるよりはいいのかもしれないけど何だよその目……。 「……ふぅん」 特にミヤフジの視線が痛い。 何あの冷たい視線!?今まで見たこと無いよあんなの!! 「あぁ、いやこれは違うんだよ!いつもあるものが無いと調子出ないっつーか丸出しが恥ずかしいっつーか……」 言い訳してみたものの、奮闘空しくミヤフジは頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまった。 うぅ……ダメージでかい……私飛べないかも……。 がくりと肩を落とした私に追い討ちをかけるようにタイツをずるっと下ろされた。 「うわあぁあああ!?サ、サーニャ何するんだよー!?」 「かえしてー……ぬいでー……」 眠そうな目でふらふらと、ゾンビのような動きで私が履いたタイツを引っ張るサーニャ。 下に履いた水色のズボンが露わになってしまって顔が熱くなるのがわかった。 「ぬ、脱げってヒドイじゃないかー!」 「だってこれ私のだからー……」 いやまったく正論だ。けど、何も今脱がさなくてもいいじゃないかー! 第一ストライカーユニットを着けているからどう頑張ってもタイツは脱げない。 そんな事にも気づかないほど寝起きで頭がまだ目覚めてないんだろうか。 「サ、サーニャ、ネウロイやっつけたらちゃんと返すから……それまで寝てなきゃ!睡眠不足は体に毒だよ!!」 「……やだー……わたしのタイツー……」 「伸びる!伸びるってばサーニャ!」 ちらりと誰かに助けを求めたけれど、シャーリーはにやにや笑ってるだけだし、バルクホルン大尉は明らかに苛ついた顔。 サカモト少佐はペリーヌとまだ押し問答を続けていて、ミヤフジは頬を膨らませたままストライカーに脚を通していた。 「坂本さん!スースーします!」 「我慢だ宮藤ィ!」 「さ、坂本少佐……やっぱりスケスケじゃないでしょうか……?」 「我慢だペリーヌゥ!」 ううぅ、孤独な戦いだなぁ……。 「な、何をやってるんだこいつら……出撃だ!全機続けェ!!」 「りょーかーい」 業を煮やしたバルクホルン大尉の雄叫びと、やる気なさげなシャーリーの応答が続く。 実際続いて行ったのは坂本少佐とシャーリーだけで、私を含めた4人はまだぐずぐずと問題が解決していなかった。 そんなぐだぐだなハンガーに鶴の一声が響く。 「みんな待って!敵はいません!警報は間違いです!!」 なぜか朝から姿が見えなかったミーナ隊長だった。 やっぱり大人の女性は頼りになるなぁ。 「ったくルッキーニの奴酷い事するよなー?」 裾をめくっていつものマイ白タイツを見る。 くっきりと、ちょうど股間の所に黒い跡が残っている。 あんな雨ざらし、吹きっさらしの雨樋に引っ掛けて体重をかけたんだからこうなるのは当たり前だ。 汚れもそうだけど生地の伸びっぷりもひどい。 「絶対弁償させてやる……」 「……」 さっきから話しかけているけどまったく反応なし。 「機嫌直せよミヤフジー」 「わ、わ!?まだ着替えてるんだから見ちゃダメ!」 「ゴ、ゴメン」 盗られた衣服を返却してもらった私達はハンガーの隅に積まれた機材の陰で着替えていた。 騒動が治まって間髪入れずにハルトマンの柏葉……なんとか章とかいうやたら長い勲章の受勲式が執り行われるからだ。 私やサーニャやペリーヌはただ履くだけでいいけど、 ミヤフジの服は構造上、どうしても素っ裸にならないといけないから時間が掛かっている。 「そりゃ、勝手に履いたのは悪いと思ってるけど、気持ち良さそうに寝てたんだし起こすのも悪いだろー?」 「そういう事はサーニャちゃんに謝ったら?」 積まれた木箱にもたれかかり、背後のミヤフジに言い訳したけど、口調はまだ刺々しい。 「なんだよー、ミヤフジだって少佐の服着てたじゃないかー」 反論するには弱いけど、言い返してみる。 「……や、した?」 「ん?聞こえなかった」 木箱を挟んで会話してるからか聞き取りづらい。 聞き返すと陰から着替えが済んだ、見慣れた姿のミヤフジがにゅっと顔を出した。 まだちょっと不機嫌らしく、頬を膨らませている。 「エイラさんも、モヤモヤした?」 モヤモヤ? ……ミヤフジが少佐の服を着てる、って思ったときにちょっとムカムカしたけど、それのことだろうか。 「……した……。かなー?」 膨らんだミヤフジの頬を両人差し指で軽く押した。 「ぷすーっ」と空気が抜ける。頬っぺた柔らかい。 「もーっ!人の頬っぺたで遊ばないでよ!」 「あはは、ごめんごめん触り心地がよくてさー」 むにむにと、いつまでも触っていたくなる。 「エイラひゃん、たのひいれふか?」 「うん。愛おしい」 自分でも驚くくらいすんなり言えた。けど、私は落ち着いている。 逆にミヤフジの方が真っ赤になって驚いているくらいだ。 そっと頬をつねっていた手を離して、撫でる。 「ごめんな。ミヤフジの頬つねるの好きだけど、痛いよな」 「痛いけど、痛くないよ」 撫でる私の手に、ミヤフジの手が重なり、頬擦りされた。 「ううん、幸せ」 ドキドキした。 「宮藤ィ!エイラァ!着替えにいつまでかかっとるんだ!早く来んかぁ!!」 ハンガーに響くサカモト少佐の大音声に二人で肩を震わせた。 どうやらこの場はおあずけらしい。 どこまでも高い青空と ゆったりと流れる白雲 風の悪戯で覗いた縞模様は そんな空の色にとてもよく似ていて 私たちは叫ばずにはいられなかった 「「「「「「「「お前か!!」」」」」」」」 「ひどいオチだった……」 「あ、あはははは……」 夕食も済んで就寝前の自由時間。 珍しくミヤフジの部屋でごろごろしてお喋りしていた。 「……ね、エイラさん」 「んー?」 寝転がって天井を見上げていたので寝返りを打って、頬杖を突いて向き合った。 「わたし達も交換してみよっか?」 「何を?」 交換?何の事だろう。 「えと、服……とか」 「なぁ!?」 飛び上がってベッドの隅まで後ずさった。 い、いきなり何を言い出すんですかミヤフジさん!? たまに予測不可能な問題発言が飛び出しますよ!? 「し、下も?」 ごくりと喉を鳴らして恐る恐る聞いてみる。 いつの間にか手が上着の裾を掴んでいた。 「あ!あの、下までとは言わないよ!」 なんとなくほっとしたような残念なような。 ……いやいや、何を残念がってるんだよ変態か私。 「あ、うん、う、上着くらいなら……」 「えへへ、ありがと」 それでも動揺は治まらない。しどろもどろでなんとか受け応える。 「じゃ、さっそく脱いじゃうね」 ばっ、と勢い良く水兵服をたくし上げるミヤフジ。 なんでこういう時ばっかり行動が早いんだよこの子は……。 あっと言う間もなく、扶桑海軍謹製ボディスーツ一枚の姿になるミヤフジ。 それから「んしょ」と頭に引っかかった水兵服を外して、子犬みたいに顔をぷるぷると振って乱れかけた髪を直した。 ミヤフジの凹凸の少ないボディラインが露わになる。 肩幅狭いな、とか、腕は細いけど太ももは割と肉付きがいいな、とか、あんなところにホクロ発見、とか変に意識……ん? なんか既視感。この光景どっかで……。 「……そ、そんなに見られると……その、恥ずかしいよ……」 ミヤフジがもじもじと脱いだ水兵服で体を隠して、上目遣いで言う。 「ゴ、ゴメン!」 慌てて目を逸らして後ろを向いた。 待て待て待て。これってまさか今朝の夢か?正夢というか予知夢ってやつか? ということはこの後は……。 「ひああっ!?」 「エイラさんも脱いでくれなきゃー」 予想通り後ろから抱きつかれた。 何が来るのか解ってたのに、つい情けない声が漏れてしまう。 さわさわと制服のボタンを探し当てられて、外される。 「じ、自分でできるからっ!!」 「そ、そう?」 なんとか気力を振り絞ってミヤフジから主導権を取り戻す。 ……でも夢の続きとかもちょっと興味が……いや待て落ち着け私。 ちょっと震える手でボタンを一つづつ外す。 「……ミヤフジ、脱ぎにくい……」 ミヤフジにくっつかれたままだから脱ぎにくい。 ミヤフジの体温とか、鼓動とかが伝わってくる。 その……すごく興奮します……。 「離れたくないもん」 もう……限界くさいです……。 「……〜〜〜〜っ!!」 「わぷっ!?」 脱いだ上着をミヤフジの頭に被せた。 すんでのところでなんとか抑えられた自分に今は拍手を送りたい。 「みえない〜!?」 「や、やりすぎだってばバカ!」 「え、えへへ……」 ようやく私の服から顔を出したミヤフジがはにかむ。 「〜〜〜〜っっ!!!」 ミヤフジの脱いだ水兵服を掴んで後ろを向いた。 もうかわいくてかわいくてしょうがない。 今すぐ窓から「私の彼女は世界一かわいいぞー!」とか叫びたい気分。 ……しないけど。できる勇気とか無いけど。うう。 どうも今日の私はおかしい。ミヤフジがかわいすぎておかしい。 かわいいは正義であるとともに罪だなぁ。 そんな頭沸いてるとしか思えない事を考えながらミヤフジの水兵服に腕を通した。 ……確かに沸騰しそうなくらい熱いけどさ。 「ん……私服のパーカーに似ててあんまり面白くないな……」 ゆとりのあるデザインの服だから圧迫感とかは特に無かった。 ちょっと裾が足りなくてズボンどころか下腹が丸見えになる。恥ずかしい。 「ん、着れたよ」 控えめなミヤフジの声に振り返る。 冬の空のような色をしたスオムス空軍の制服に身を包んだミヤフジがちょこんと座っていた。 ちょっと大きいサイズなので手の甲まで隠れる袖とか、ちょっと余ってる裾とか。もうね。 「ど、どうかな?」 「……ちょーかわいい」 「……照れちゃうよ。エイラさんもなんだか新鮮でかわいいよ」 えへへ、と頭を掻くミヤフジ。もうだめ我慢の限界。 「わぷっ!?」 「ん……」 抱き寄せてすこし強引に唇を重ねた。 ミヤフジも驚いたようだったけど、すぐに目を閉じて身を任せてくれる。 十数秒、ミヤフジの部屋には秒針のかちこちという音と、微かな水音だけが響く。 しばらくして、どちらからともなく唇を離した。 「……んふ……エイラさん、強引」 「ごめん、ミヤフジがかわいすぎて」 こつんとおでこ同士を軽くぶつけた。 目を閉じたミヤフジが袖を鼻につけてくんくんと嗅いだ。 うう、なんかムズムズする。 「……エイラさんのにおいがする」 「……変な匂いとかしないか」 「ううん、いいにおい。大好き」 ふにゃ、と顔を崩してミヤフジが笑った。 もうほんとどこまで私を虜にすれば気が済むんだろうねこの子は。 また我慢できなくなってきたからキスしようと顔を近づけて 「ぬわーっ!?」 ドアが開いてハルトマンが倒れ込んできた。 「ひゃ!?」 「ギャー!?」 しまった、という顔で苦笑いを浮かべるハルトマン。 「うははははは!ごめん続きどうぞ」 「できるかこのバカハルトーっ!!」 「んっふっふ〜それにしても衣装チェンジとかマニアックだねーお二人さん。ミヤフジかわい〜」 いやらしい目つきで一番痛いところを突かれる。 「はわわわわわ……」 「ギャー!?見んなバカ!!泥棒の次は出歯亀かよ!?」 「いや〜。通りかかったらなんだか悩んでる子がいたもんでさ」 ちらりと移動するハルトマンの目線を追って開け放たれたドアの方を向く。 「サ、サーニャ!?」 「サーニャちゃん!?」 「……お風呂誘おうと思ったんだけど……お取り込み中だったから、どうしようかと思ったらハルトマンさんが……」 恥ずかしげに説明するサーニャ。 けど半分くらい頭に入ってない。 「あ、あー、待って待って……ええと、バレてたの?いつから?」 「だいぶ初期から……けど普段のそぶりでバレバレだよエイラ……」 ……ほんわかエルマ先輩にだってバレてたんだから賢いサーニャが気づかない訳ないよねそうだよね。 「ま〜その辺の話はお風呂でゆっくり聞かせてもらうことにしましょうかね〜」 と、心底楽しそうなハルトマン。 「私も……聞きたいな……」 顔を赤らめて興味津々のサーニャ。 「あ、あはははは……」 「エ、エイラさんしっかり!」 も、いいや。どうにでもなっちまえ。全部吐いちゃえば気が楽になるかもしれないし。 とりあえず嫌な汗を風呂で流そう…。 「じゃ、先行ってるね〜。変な事して遅れないでよね〜?」 「私も先に行ってるね……」 ……ホント暴風みたいな奴だ。 「エ、エイラさん……」 「……とりあえず風呂、行こうか……」 「う、うん……」 二人でとぼとぼ歩き出す。 「あ」 そういえば忘れ物。 「え?……んっ」 さっきの続き、ね。 7話「スースーするの」の裏側妄想 派遣少尉のせいで混乱気味