〜キミの手料理どんな味?〜 「運命線〜♪ギュッと重ねたら〜♪」 キッチンに立つエイラが鼻歌混じりに料理をしている。鼻歌に混じってリズム感の良い包丁の音に何かが煮える匂いまで漂ってくる。 相変わらずトレーナーにジーンズというラフな格好だったが今日はエプロンをしているのでちょっと女の子らしい。 髪は調理の邪魔にならないように後ろで纏めてお下げにしていた。 しかしエプロン姿のエイラが僕の家のキッチンで料理をしているというこの状況はなかなかに信じがたいものだった。 今朝唐突に、 「今日の夕飯は私に任せろ」 と食材の入った袋を片手にエイラが押しかけて来た時は何事かと思ったが、直後にとある出来事を思い出した。 事の発端は数日前、エイラと一緒に夕飯を食べた日のことだ。その日はいつもの店ではなく気分転換に路地裏の少し寂れた店に入った。 店の感じから余り流行っていない店のようではあった。でも出された料理は見た目こそシンプルだったが家庭的であり素朴な美味しさがあった。 僕達はその味に満足して談笑しながら食事をした。料理を食べ終わったあたりで僕はふとあることに思い至ったのだった。 「そう言えばエイラって料理出来るの?」 僕の余りにもな発言にエイラはジト目で僕を見ながら、 「何気に失礼な奴だなお前は。そんな事言うなら今度私の手料理を食べさせてやろうか」 と返して来たのだ。 これが現状までのまでのいきさつである。当事者の僕としてもなぜこういう流れになったのかは今一理解できていない。 でもエイラの手料理を食べられるという幸運には感謝している。 「ほら出来たぞ。食べてみろ」 エプロン姿のエイラが目の前に置いたのはミートボールのブラウンソースがけマッシュポテト添えだった。 ちょっと大き目のミートボールを一口大にして口にする。初めて食べたエイラの手料理は…。 「…甘い」 おかしい、肉料理のはずなのに妙に甘い。程よい甘味っていうレベルじゃない。このブラウンソースには塩気が全く無いんだ。 その言葉に怪訝な顔をしながらもエイラは僕の持っていたフォークを奪い取り、ミートボールの欠片にフォークを突き立て一口食べる。 ・・・ってエイラ、それ間接キスなんじゃ。 「……甘い」 たっぷり十秒くらい租借してから、僕の純情な戸惑いも気にせず同じ事を言うエイラ。 キッチンにとって返しなにやら小瓶を見比べる。そして中身を舐めてその場で固まってしまった。 僕もキッチンに行きエイラの持っていた小瓶の中身を舐め比べてみる。 「…両方砂糖だね」 そうエイラの使っていた二つの小瓶はそれぞれ塩と砂糖が入ったものではなく両方とも砂糖だったのだ。 エイラは僕の方をキッっと睨み付け、 「くっそー!リベンジだリベンジ!来週まで首を洗って待ってろよ」 地団太踏んで半分涙目でこっちを指差してくる。子供っぽいその仕草に思わず笑みが出てしまった。 僕の笑みを嘲笑と受け取ったのかエイラはさらに闘志を燃やしながら、 「くっそー!絶対絶対ぜーったい!美味いって言わせてやる!」 と宣言して去っていった。 後日作り直された料理はとても美味しかった。 「これが私の実力だ!どうだ参ったか!」 そう言って胸を張るエイラ。そんなえらく自慢気なエイラに僕はまたも笑みがこぼれてしまうのを止められなかった。