「…あ、ストライカーユニットの音」 「うん、サーニャちゃんが哨戒に行ってくれたんだね」 「エイラさんも一緒みたい。やっぱり仲良しだなぁ」 「芳佳ちゃんも前に一緒だったよね? どうだった?」 「あのね、すごいの! 夜の空って本当に真っ暗で、本当に怖いの!  飛んでるうちにどっちが上でどっちが下かわかんなくなっちゃうの!」 「わぁ…やだなぁ、私絶対無理だよ…」 「うん、私も無理だと思ったんだけどね、  サーニャちゃんとエイラさんが手をつないでくれたから何とか飛べたんだよー」 「優しいんだね、二人とも」 「リーネちゃんは二人とあんまり話さないの?」 「うん…何話せばいいか、わかんなくって」 「じゃあ今度お茶会で私と一緒にお話してみよ! サーニャちゃん、もっとみんなと仲良くなりたいって言ってたよ」 「…うん、芳佳ちゃんとも一緒なら、何か私もみんなと馴染める気がする」 「よっし、じゃあお茶請けの準備も張り切らないとね!」 ぶぃぃぃぃぃ…ん。 遠くに聞こえるストライカーユニットの音で目が覚めた。 ゆっくりと起き上がる。 カーテンの向こうからでも明るい光が差し込んでいて、 今日はいい天気なんだと思った。 日の光の角度から見てたぶん昼下がり…2時ぐらい? 「おはよー、サーニャ」 横から声をかけられた。 エイラだ。 テーブルに座ってタロットを持っている。 「よく休めたかー? だるくないか?」 いつも変な時間に寝てる私を、エイラは見守ってくれる。 これまではそれですごく安心できたんだけど。 …何だかエイラ、普通だな。 今日は少し物足りなく思った。 むー。 半分寝ぼけたまま立ち上がる。 タロット占いの手を途中で止めたままこっちを見てるエイラが、 「どしたの?」って言うみたいに首をかしげる。 無言で近づいて、そのまま抱きついた。 「んにゃっ!?」 んふふー、かわいー。 そのまましばらく待ってると、エイラのタロットが床に落ちる音が聞こえた。 私の背中と頭に、おずおずとエイラの手が伸ばされる。 あぁ、夢なんかじゃなかったんだな。 私がエイラにあんな事言っちゃったのも、エイラがそれを受け入れてくれたのも。 もう一度そのまま眠りたくなるような幸せに包まれた。 「ごめんね…タロット、邪魔しちゃったね」 「た、大した事占ってたわけじゃないし」 「…何占ってたの?」 「あの二人、どっちが飛ぶのうまいかなって」 私に向けられていた声が、窓の方向に移動した。 エイラの腕の中から窓を見ると、飛行機雲が2筋流れていた。 「…?」 「宮藤とリーネ。今日も特訓だってさ」 その二人には悪いけど、ちょっと拍子抜けした。 「…私たちの事、占ってたんじゃないんだ」 「そ、そんなん必要ないし! 悪い結果なんて出るはずないし!」 「…それもそうかな、ふふ」 「だろー?」 しばらくの間、エイラの胸の中で 遠くから響くエンジン音を聞いていた。 速度を出そうとする高い回転音、急制動をかける鋭い音。 …そう言えば、最近私、全然戦闘飛行してないなぁ。 夜間哨戒のせいで、昼にネウロイが出ても待機してたし。 このまま久々に戦闘に出て、足を引っ張る事になったなら…。 きっとエイラは私を助けてくれる。かばってくれる。 エイラは優しいから。 …私のせいで、エイラが傷つくかも知れない。 思わずエイラに回した腕に力がこもっていた。 「サーニャ…? どうかしたか?」 私の些細な様子の違いにも敏感に反応するエイラ。 この優しさに甘えっぱなしじゃいけない。 あの夜、私は誓ったじゃないか。 この人を守るんだって。 「ん、どうした? よく眠れたか? いつも助かっているよ、サーニャ」 空中の芳佳ちゃんとリーネさんに向ける厳しい視線をゆるめ、 坂本少佐は私にねぎらいの言葉をかけてくれた。 「あの…いえ…任務ですから」 少佐やミーナ隊長こそ私たちにとても良くしてくれている、それがわかっているのにこんな返事しかできなかった。 いまだにエイラ以外とは歯切れ良く喋れない自分が少し情けない。 「サーニャ、最近哨戒ばっかで戦闘機動がにぶってないか不安になったんだってさ。  真面目だよなー」 ついてきてくれたエイラがすらすらと説明する。 「おお、自主訓練か! 素晴らしい心がけだぞ! はっはっは!」 坂本少佐がわしわしと頭をなでてくれる。 お父様はもっと優しい触れ方だったけど、好意が伝わってくるのはどっちも一緒だ。 安心して目を細めた。 …少しエイラの視線が気になるけど。 「よーし、二人とも下りて来い! 今日の訓練のシメはゲストを迎えての豪華版だ!」 振り返った少佐がインカムに声を張り上げた。 「…というわけで、サーニャと模擬戦闘を行う。  言っても相手はオラーシャのエースだ、ハンデとしてこっちは宮藤とリーネのロッテで行く。  しかし作戦は全てお前たちが決めろ。私は何も手助けしない。  ペイント弾を使用し被弾したら直ちに空域から離脱する事、どちらかが全員被弾したら終わりだ。質問は?」 シンプルに訓練内容が説明された。 「はい、坂本さん!」 「なんだ宮藤!」 「勝てる気がしません!」 「馬鹿者っ!」 …仲のいい師弟だなぁ。 リーネさんはと言うと…エイラが「たーべちゃーうぞー」とかやっておどかしてるので身を縮まらせていた。 「いいか二人とも! 何も勝てとは言っていない、しかし諦めた奴は真っ先に落ちる!  今のお前たちがどれだけの事を出来るのか見せてみろっ!」 「「は、はいっ!」」 少佐の檄に、芳佳ちゃんとリーネさんどころか私の身も引き締まる。 「…ホントに大丈夫か? 一人で」 エイラが小声で私に聞いてきた。 「…うん、大丈夫」 これから戦う二人に視線を合わせたまま答える。 あの二人を過小評価するつもりはないんだけど…。 エイラに見ていてもらうんだ。安心してもらうんだ。 私だって、うん。 やる時はやるんだよ。 三人は二言三言挨拶を交わした後、 爆音を張り上げて空に上って行った。 私の「がんばれー!」という叫びは届いたのだろうか。 「ふふ、まるで子離れできない親鳥だな」 サーニャを見上げる私に少佐が声をかけてきた。 だってだって。 …サーニャが「来るな」って言うんだもん。 「まぁエイラまで上がるとあいつらに勝ち目はないからな。仕方あるまい」 「ひ、一人でもサーニャは負けねーよ!」 「はっはっは、冷静な観察眼なのか判官びいきなのか判断しかねるな。  確かに実戦経験の差は圧倒的だが…あいつらも成長してるんだよ。ほら、始まるようだぞ」 少佐が空を見上げる。 安定した高度に達した一機と二機が相対していた。 それぞれがトップスピードで正面から交差する。 模擬戦開始の合図だ。 それぞれが旋回して、相手の後ろを取ろうとする。 宮藤がターンするよりサーニャのそれの方が速い。 曲がろうとしている途中の宮藤の後ろにつけて、サーニャが追いかけ始めた。 「うし!」と喜ぶものの、 「リーネ後衛、宮藤前衛で囮か。常套だが正解だ」 少佐の言う通り、リーネは十分な距離を取って銃を構えていた。 「いやでもアレ、いつものでっかいライフルでもないんだろ? 射程が」 言いかけるうちにリーネが発砲したようだ。 サーニャの追尾機動に回避するための動きも混ざり始める。…遠すぎるのに。 「あいつの魔力も多少安定してきてな。射程・弾速ともに通常の1.1倍から1.2倍は出るようになったはずだ」 事もなげに少佐が言う。 「何ソレ! ずりぃ!」 「何を言っとるか。魔力を使う訓練もしないと実戦の役には立たんだろう。  それにサーニャも自身の能力を使いこなしているぞ。まるで後ろに目があるようじゃないか」 言われた通り、サーニャはリーネの放つ弾を次々と回避しながらも宮藤を追う。 魔力で弾速も強化された弾なら、風切り音も普通とは違うのだろう。 うん、あの弾が当たらないなら…まぁ大丈夫かな。 宮藤もいつまでも避け続けられないだろうし、そうなれば前衛をなくした本丸ってのはもろいものだ。 「ふー…」 悪いなー二人とも。相手がサーニャでさえなければ応援してやったのになー。んっふっふ。 「はっはっは、安心するのはまだ早いぞ。宮藤の土壇場を甘く見るな」 「えー?」 少佐は宮藤びいきだなぁ。ペリーヌが慌ててるのもわかる気がする。 現に今だってひどく危なっかしい飛び方で、いまだに被弾してないのが不思議なくらいだ。 「まぁ言いたい事はわかる。…たまに私は、あの機動は油断させるためにわざとやってるんじゃないか、と思う事があるよ」 そう静かに少佐が言ったその時。 リーネからの連射にサーニャが回避機動を合わせた瞬間、 追尾から解き放たれた宮藤が異様に鋭いターンを見せた。 「ええ!?」 「出たな!」 一瞬にしてサーニャの後ろを取った宮藤が信じられなくて目をこする。 「基本の動きはダメなくせに私の得意技を真似るんだから、全く驚かされる…! リーネの指示タイミングもいい!」 いやいや嬉しそうだなぁおい! いや教官としては当然なんだけど! 私にとっちゃそれどころじゃないんだよ! 宮藤とリーネに前後を挟まれるサーニャ。 ああああ私も一緒に上がれば良かった、せめて何か出来ないかなんか! 「さ、サーニャーーー!!」 思わず叫んだ。 普通なら届くはずもない距離だけど、サーニャがこっちを見た気がした。 いや、見てる。 回避機動を取りながらも、間違いなく見てる。 どうしたんだろう。 叫んでおいてなんだけど、それどころじゃないはずなのに。 サーニャが魔法の力を使ったのか、私のすぐ耳元でサーニャの声が聞こえた。 「少しだけ無茶するけど、大丈夫だから、心配、しないで」 「だ、だから、私の事気にしてる場合じゃ…!」 思わず口をついて出るけど、それは届かなかったのか、 サーニャからの返事はなかった。 そしてサーニャはいきなり急降下を始めた。 まるで私に向けて突っ込んでくるみたいに。 速い。 めちゃくちゃ速い。 普通に考えたら…これは地面に…。 一瞬嫌な予想が頭をかすめ、慌てて打ち消す。 宮藤も後を追ってるけど、この速さで地面に近づくのは怖いんだろう、どんどん離されて行く。 正直どうなってしまうのか私も怖い。 でもサーニャは「心配するな」って言った。 だから未来予知もしない。 ただ目を逸らさずに見る。 ぐんぐん距離が縮まって、サーニャの表情まで見られるぐらいになった瞬間、 そのサーニャが少し微笑んだ。 こっちに向かって真っ直ぐ飛んできていたサーニャが、ばっと手を広げ体を起こした。シールドまで張った。 その瞬間全身に風を受けた体がぶわりと浮き上がる。 地上に落ちるどころか、その衝撃をそのまま180度ターンに利用して あっと言う間にサーニャは再び空に上がっていった。 「…へ?」 ぽかんとするしかない私。 「…上昇気流か何かか? 風の音で空気の層を見極めたとでも…?」 ああ、なるほど。 少佐の解説に思わず納得する私。 「もし本当にそうなら、無茶苦茶な魔力の冴えだな。…宮藤の体たらくも責められん」 宮藤は…サーニャの機動に視線も追いつけなかったのか、キョロキョロと辺りを見回していた。 その間にサーニャはすごいスピードのままリーネの元に飛んでいく。 リーネは自分がターゲットという事に慌ててしまったのか、逃げもせず弾をばら撒いている。 「あれも責められない、かな?」 「いいや、あれはただ単にリーネの悪い癖だ。指揮官だけは慌ててしまうのは許されない」 厳しいなぁ。 まぁ確かにそんな状態でリーネの狙いが定まるわけもなく、 下降時のスピードをそのまま乗せたサーニャが、すれ違いざまにペイント弾をストライカーユニットにヒットさせた。 「…ああ、こちらでも確認した。いや、すぐには戻らなくていい。  こうなってしまうと恐らく…あぁ、うん。よし、全員帰投!」 リーネからの被弾報告が来たのだろう、インカムに向けて少佐が指示する。 短い通信の間に、リーネを助けようと一直線に飛んでいた宮藤に、サーニャの狙い澄ましたペイント弾が着弾していた。 「…ふぅ…」 思わず溜め息が出た。 ハラハラもしたけど、すごい。サーニャはすごいや。 「やれやれ、相手が悪かったか…まさかサーニャがあそこまでとはな」 少佐も認めてる。 …信じられないなぁ。 あんなすごい子が、私を好きだって言ってくれるなんて。 無事に済んだ事への安心と、そんな不謹慎な思いで、 頬がゆるんでいくのを抑える事が出来なかった。 「はぁ、はぁ…す、すごいね! サーニャちゃん!」 「か、完全に、やられ、ちゃった…」 「ううん…二人も、すごかった…前とは、比べ物に、ならない、ぐらい」 激しい運動で三人とも息が上がってる。 何とか落ち着けながら、ゆっくり下に降りていった。 エイラがにこにこしながら待っててくれてる。 いいところ、見せられたかな。 「あう〜…坂本さん、怖い…」 「腕立て追加、かなぁ…」 …ごめんね二人とも。 「お疲れ様、サーニャ!」 エイラが駆け寄ってきてくれる。 「えへへ…ちょっと、危なかった」 「…後でお説教な」 「やっぱり…心配させちゃった?」 「しないと思ったのかよー」 「…ごめんね」 笑顔で迎えてはくれてるけど…やっぱり無茶しすぎちゃったかな。 エイラを安心させたかったんだけど、二人が想像以上に手強くて。 …でもその強敵だった二人は、少佐の前に正座で身を縮こまらせていた。 「何にしても動揺は禁物だ! 例え僚機が被弾しようとも視線だけは敵から外しては駄目だ!  しかるにお前達は何だ! 片や敵接近に慌て回避行動すら取らなかった! 片や敵の傍で戦闘機動すら忘れ一直線!  いいか! 常に考えろ! 諦めた者、つまり思考を放棄した者が真っ先に落ちると言ったはずだっ!」 すごい剣幕だ…怖い。 ホントにごめんね、二人とも。 心の中で手を合わせた。 「まーまー、少佐も言ってたじゃんか相手が悪かったってー」 そんな様子の坂本少佐に気軽に声をかけるエイラにびっくりした。 すごいな、怖くないのかな。 「…うむ、確かに言った。素晴らしかったぞ、サーニャ」 さっきまでの怖さとは打って変わった優しい微笑み。 「は、はいっ」 やっぱりお父様を少し思い出した。 「まぁ、一時はそのサーニャ相手に攻勢に回ったんだからな。  だんだんチームワークも板についてきた、という事だろう。そこは良かったぞ、二人とも」 「そだなー、あれはびっくりしたぞー」 私もこくこくと頷く。 芳佳ちゃんに後ろに回られた時は、一瞬覚悟してしまった。 さっきまで身をこわばらせていた二人は、 それぞれから褒められてぽかんとした後、 全く同じタイミングで顔を見合わせて、がっしりと抱き合った。 「ほ、褒められちゃったよー! リーネちゃん!」 「うん、うん、やったね芳佳ちゃーん!」 そんな様子を見て、少し羨ましくなってしまった。 誰とでも仲良くなれる芳佳ちゃんはもちろん、 私も…エイラとあんな風に…。 「よーし、少し早いが今日の訓練はこれで終了だ!  ストライカーユニットの汚れは自己責任でしっかり落とせ、それが済んだら上がってよし!」 「う、腕立て追加はなしですか坂本さん!」 「サーニャ相手によく頑張った、今日は免じてやろう。まぁしたいと言うなら止めんがな、はっはっは!」 「え、遠慮させていだきます…ほら芳佳ちゃん、行こ!」 慌ててユニットを担いだリーネさんが芳佳ちゃんを急かす。 あれだけの運動の後の腕立ては辛いもんね。 「あ、サーニャちゃん、今日もお茶会しようと思ってるんだ、良かったら来てね!」 ユニットを両脇に抱えて芳佳ちゃんが誘ってくれる。 返事しようと思ったけど、二人は小走りに行ってしまった。 …やっぱり私、話すの下手だなぁ。 「二人の当面の課題…精神面を鍛え上げる、という方針も見えて実り多き訓練だったよ。  ありがとうサーニャ。お前の空戦機動もなまっているどころか磨きがかかっていて安心したぞ」 坂本少佐からも声をかけられる。 「あ…こ、こちらこそ、ありがとうございます」 元々は私のわがままで始まった訓練で礼を言われると、なんというか、申し訳ない気分。 「夜間哨戒明けであの機動は多少堪えるだろう。ゆっくり体を休めてくれ」 ずっと私を気遣ってくれながら、坂本少佐も基地の方に戻っていった。 滑走路には私とエイラだけが残される。 「…さ〜て〜、お説教タイムと行こうか〜」 …うぅ。 さっきまでにこにこだったエイラの顔が、ニヤニヤに変わった。 「いや、実際あの二人も予想以上だったし、それを上回ったサーニャもすごかった。正直感動したよ」 面と向かって言うのが恥ずかしいからか、視線を逸らしながらもエイラが褒めてくれた。 …えへへ。 坂本少佐に褒められたのも嬉しいんだけど、 一番褒めて欲しい人からの言葉はちょっと別格。 「でも、心配するなってのはナシ。  …うん、私が言いたいのは、それだけ…かな」 …少し予想外だった。 「『心配させるような事をするな』…じゃなくて?」 「だってさー、それは…言い方悪いかも知れないけど、仕方ないじゃん? …戦争、やってるんだから」 少しエイラの表情が曇る。 「サーニャはさ、私にとって本当に大事な人でさ、何があっても守りたいんだ。  そのために出来る事は何でもしたい。…この気持ちって、要するに『心配してる』って事だろ?  サーニャからそれをするなって言われると、寂しいんだ」 ぽつりぽつりとエイラが話す。 嬉しさが胸に溢れて、私は返事が出来なくなった。 「で、でも今日の調子見てるとホントに大丈夫そうな感じだったけどなー! あはは!」 暗い空気を飛ばそうと、無理にエイラが笑う。 「あれ…エイラのおかげなの」 「え?」 「あの時、私のアンテナは戦闘空域の音を拾ってたんだけど…そこから離れてるはずの地上から、エイラの声が聞こえたの」 「そ、そんな大声だったかなー」 「わからない…でも、あの時エイラが私を呼んでくれたから…あの周辺の空気に気付いて、うまく風に乗れれば、二人を振り切れるかなって」 「…なら、ホラ、心配して声を張り上げるのも悪くはないだろ?」 「うん…ありがとう、エイラ」 エイラを安心させようと思って飛んだのになぁ。 それとは逆に心配させちゃって、それがこんなに嬉しいなんて。 「さて、それじゃ行こっか。疲れただろ? ストライカーユニットは私が持つから」 エイラにぴょこんと耳と尻尾が生える。 私はまだユニットを履いたままだ。 脱ごうとして、思いとどまる。 「どした? サーニャ」 これだけ心配してくれてるのなら、もうちょっと甘えてもいいのかな。 「疲れたから…私ごと運んで?」 あ、エイラの尻尾が逆立った。びーんって。 「い、いやいやいや! それは、あの、外だし! 昼だし!」 「…誰もいないよ。芳佳ちゃんとリーネちゃんも、ハンガーの裏側で洗ってるみたい」 アンテナで周りの音を探ってみた。 うん、たぶん大丈夫。 私だって、二人きりじゃないと甘えないよ。 「あー…うー…今日だけだかんな!」 顔を真っ赤にしたエイラがかがみ込む。 えへへ、やっぱり優しいな、エイラ。 さっきの抱き合う芳佳ちゃんとリーネさんを見て羨ましくなっちゃったの。ごめんね。 心の中で謝ってると、いきなり持ち上げられた。 「きゃっ!?」 「な、なんだよー、サーニャから言ってきたんだぞー」 「だ、だって、私、エイラの背中におんぶ…かと思ってて…」 今の体勢は、いわゆるお姫様だっこ…という形で。 エイラの顔がすごく近い。 陽が差すエイラの顔を下から見上げると、なんだかすごく、かっこよかった。 「あ、あぁ、あー…じゃあおんぶにする?」 「ううん…このままがいい…」 私からも腕を伸ばしてエイラの首に抱きつく。 しあわせぇ…。 「さ、サーニャ、軽いな」 「そんな事ないよ…エイラが頼もしいんだよ」 エイラはあーとかうーとかよくわかんない声を出して、足早にハンガーに歩き出した。 …もっとこうしてたいのに。 「お、お茶会に呼ばれてたから、急がないとな」 言い訳っぽくエイラが呟く。 「うん…一緒に行こうね」 エイラの体温を感じながら頷いた。 私、頑張るから。 エイラの事を守るつもりなのも、まだ諦めてないから。 だから…またこうやって甘えさせてね。 ・戦闘も書いて黒歴史分大幅増量 難しいね ・サーニャの能力をだいぶ拡大解釈してる気がします 戦闘記録のサーニャの項目が早く読みたい ・お茶会も書こうと思ったんだけど長くなりすぎた