帰ってきたバルクホルンとルッキーニを組み合わせたなにか(四回目) ※※※※ ここは連合軍第501統合戦闘航空団基地。 ガリア方面の奪還と、ネウロイの進行を食い止める最前線である。 「うわ〜、わたしこんなに大きなケーキ初めてみたよ〜」 「うん!焼きあがったからホイップしよう芳佳ちゃん!」 「すごーい!楽しそう!」 いまだ多くの謎を秘めた異形の敵との、先の見えない戦い…。 私達は人類と世界を守るため、その身を捧げて戦うストライクウィッチーズだ。 「エイラ…その星はもう少し右…」 「右だナ」 「その人形はもっと上に…」 「上だナ」 そんな私達には、祝い事の類はふさわしくない。敵にはそんなこと全く関係ないからだ。 事実、奴らの出現はどんどん不定期になりつつある。 予報があてにならなくなってきているほどだ。 「ほう…これはいい香りだな」 「さすが少佐!おわかりになるのですね!」 「いや、紅茶のことはよく分からないのだが、これはいいものだと思うぞ」 「ああ……武道だけでなく文化的感性にも秀でていらっしゃるのですね…ワタクシ感服いたしましたわ…」 12月24日。クリスマスイブ。 人々はそれぞれの愛しい人と共に聖夜を過ごすことだろう。 だが、我々は常に敵に備え、警戒を怠ってはならない。 「駄目よハルトマン中尉。アナタさっきもつまみ食いしていたでしょう」 「いいじゃーん 減るもんじゃないしー」 「アナタのせいで順調に減っているわよ…」 「代わりにミーナの眉間のシワが増えてるから大丈夫だよーん」ヒョイ!パク! 「……謹慎回数の記録を更新したいようね……」 ……怠ってはならない……。 ジュウウウウウウウウウウウウウ!!!!!! 「うぉー!すごーいシャーリー!燃えてる燃えてるー!」 「はっはー!やっぱりこういう席では肉だろ肉ー! そらー!ガンガン焼くよー!」 「うおおぉー!!」 怠ってはならない……はず……なのに。 「う、浮かれている…。 それも派手に」 つい地面に手と膝をついてしまうほどに脱力した。 ミーナが今朝のミーティングで突然、今夜はクリスマスパーティーだと言いだした。 最初はなにか特別な訓練を表す比喩だと思っていたのだが、整備員も総出で飾りつけされる基地や 朝から大量に料理の仕込みをしている宮藤達を見て、そのままの意味であると気付いたのは昼頃になってからだ。 なぜ誰も疑問に思っていない! 今は戦時下で、ここは前線基地だぞ!? 少しくらいの催しなら、私もいいとは思う。しかし全力でやりすぎだ! 基地がライトアップされてるぞ!? 本気な大きさのツリーまであるぞ!? シャーリーはさっきからなんだ!狼煙でもあげてるのか!? ミーナと少佐まで一緒になってどうしたんだ!? 眩暈がしてきてしまう……。 「ありゃ?こっちにも眉間のシワを増やしてる人がいるね」 いつもの調子でフラウが話しかけてくる。浮かれてるのがお前だけなら、それほど変でもないんだがな。 「なんで皆こんなにはしゃいでいるんだ…」 「そりゃークリスマスだし? オカシイことないでしょ」 「今は戦争中だぞ」 「うん」 「私達は軍人だぞ」 「うん うん」 「ここは前線基地だぞ!?」 「うん その通りだね」 ああ、そこはわかっているんだなフラウ。正気を失ったのではと心配してしまったぞ。 「で……ハルトマン。その事実と、今の状況がとても結びつくとは思えないんだが?」 「うーん、それを私の口から説明するのはちょっとねー」 なにを言っているんだコイツは。 「まー…私に言えることは、トゥルーデも一緒に楽しめばいいってことかな」 「だから、我々は常に敵に備えなければならないのであって……」 「う? どしたのトゥルーデ?」 いつの間にかルッキーニがそばまで来ていた。手には特大の骨付き肉を握っている。 「あー!ルッキーニいいなそれー。私にもちょーだーい」 「いしし。ダメー。 あげないよーだ」 「くそー 私もシャーリーに貰ってくる! おーいシャーリー!」 「あ、待っ……」 パタパタとフラウが走り去っていってしまった。まだ話は途中だというのに……。 「ハァ……」 大きく溜め息をついてしまう。私は間違ってなんかいないハズなのに、なぜ私だけが異端みたいな状態なんだ。 「具合悪いの?どっか痛いの?だいじょぶ?」 「ん…」 うなだれている私を、ルッキーニが心配そうに覗き込む。 「いや、そうじゃないんだ ただ…なんでここまでやる必要があると思ってだな…」 「パーティーのことー? いいじゃん!パーッと騒いだほうが楽しいよ?」 ここが一般家庭ならな……。 なんだかもう説明するのも面倒になってきた。 「?」 ジーッと真っ直ぐに私を見つめてくる瞳。 なぜか、私はそれから目を逸らしてしまった。 「じゃあウィッチーズは、広間に集合ねー!」 ミーナが大声で呼びかけている。 そ、そうか作戦会議だな!?やはりなにか意図があってのことだったんだな? 私には教えてくれればいいのに。つい狼狽してしまったぞ。  ・  ・  ・  ・  ・ 「じゃあこの箱から一枚ずつクジを引いてね」 ミーナが箱を回す。クジ? 哨戒任務のシフトの割り振りでも決めるのか? と、いうかその前に… 「ミーナ…その格好は……」 「え? 見ての通りサンタクロースじゃないの 似合う?」 クルッ!っとその場で一回転するサンタミーナ。ノリノリだこの隊長は。 「似合ってはいるとは思うが…」 いやいやいや、そういうことじゃなくてだな…… 「はっはっは!似合っているぞ!馬子にも衣装というやつだな!」 「さ、坂本さん!違います!使い方間違ってます!」 「冗談だ!お約束というやつだ宮藤ぃ!」 「さっすが少佐!ユーモアのセンスもお持ちですのね!」 「もう美緒ったら…ではそれぞれ別室でクジに書いてある衣装に着替えてもらいます」 「………」 ペラッと、自分が引いたクジを開く。 【扶桑皇国陸軍制服】 「…………………」 なんだろう。他国軍の制服を着て、各国の軍人の心構えを学ぼうとかそういう試みなのか…… ミーナがやることだ…! なにか意味があることなんだ。そうに違いない……はず。  ・  ・  ・ 「じゃあ皆入ってきてー」 ミーナの声で、着替え終わった皆が部屋に入ってくる。 「あ!バルクホルンさん!それ私が書いたやつです!」 扶桑陸軍の制服に身を包んだ私を見て宮藤が声を上げる。 なんかこう、落ち着かない格好だな…。 この下半身のヒラヒラ感……ストライカーを装着するときに邪魔しないだろうか? 「いいなー、私それ一度着てみたかったんですよー」 そう言ってピョンピョン跳ねる宮藤は、スオムス軍の制服を着ていた。 「あ…これですか? えへへエイラさんに借りちゃいました」 小柄な宮藤にはやや大きいようで、袖からチョコンとでた指先がなんとも可愛らしい。 「でもウエストは少しきついんですよね…なんだかショックです」 「まったくもーキョウダケダカンナー」 「あ、エイラさ………ん?」 そこにエイラの声で喋る坂本少佐が現れた。 長い銀髪を束ね、白い肌を白い海軍制服で包んでいる。 同じ眼帯までつけているが、なぜか水着風のボディスーツは白かった。 「エ、エイラさん………」 「な、なんだヨ……」 「すごい……カッコイイです!!」 「そっかー?なんか下半身がスースーして落ちつかないんだけド……片目で前も見づらいし」 確かに、まるで少女文学にでもでてくる麗人といった様相だ。 「クジに【坂本美緒】とか書いてあるんだもんナー 最初は意味わかんなかったヨ」 (キーッ!  ワタクシが着たかったのに!!) ん なんか聞こえたような。 「エイラ……うん…素敵だよ…」 「なにいってんだよー サーニャのほうが可愛いっテー」 サーニャは【使い魔】だったらしく、黒猫の格好だ。 耳や尻尾は自前だが、肉球手袋や猫ヒゲを付けている。 「……にゃ〜ん……」 「おおぅふ……サーニャん! サーニャんなんダナ!!」 「落ち着いて下さいエイラさん」  ・  ・  ・ 「はっはっは!皆なかなか似合っているぞ!」 サンタミーナの隣でトナカイが喋っている。 あなたはどんな格好でも少佐過ぎます。 「じゃあ、そろそろパーティを始めるから、外に集まりましょう」 ゾロゾロと各人が会場である外にでていく。 私はそっと、ミーナに耳打ちして聞いてみた。 「なぁミーナ。一体この格好にはどんな意味があるんだ?」 「あら?なんだかいつもと違って楽しいでしょう?レクリエーションの一環よ?」 ……そうなのか。 「そもそもなんでこんな大規模なパーティーなんだ?別に一室程度のものでよかっただろ」 「それじゃあ、とても皆さんが入りきれないわよ 少し遠出して来てくれた人達に申し訳ないわ」 皆さん?遠出? 「一体なんのことだ?」 「まぁまぁ…それじゃあ外に出ましょう」 サンタミーナに手を引かれ、会場に出た。 「…………!」 煌びやかに飾られた基地に大きなツリー。 色とりどりの料理と大きなケーキ。 そして周りにはたくさんの人々が談笑している。 「見慣れない人達もいるが……ひょっとして民間人か?」 「そうよ。近隣の町からも参加者を募っていたの」 「なぜそこまでするんだ……」 「…………来年も、こうしてクリスマスが祝えるといいわね…………」 少し寂しそうにミーナが呟く。 まだブリタニアに来て間もない頃、よく見た横顔だった。 「あの人達の中にはネウロイの侵略で家族を亡くした人や孤児たちもいるの…」 「……………」 今日はクリスマス。愛しい人々と過ごす日…か。 「だれにだって、大切な誰かが必要なのよ。 それは私達も、あの人達も同じ」 その通りだ。 私にとってもそれは、戦う意味であり、生きる意味そのものであった。 「だから今日だけは……ね☆」 パチッ☆と、いつもの穏やかな笑みに戻ったミーナがウインクする。やはりノリノリだこの隊長は。 「整備班や観測班の人にも交代で参加してもらっているわ。宮藤さん達に料理を運んで貰っているし」 「任務にもぬかりはないないという訳か……隊長は有能過ぎても困りモノだな」 「アナタ達も、アルコールだけは駄目だからね?いつ出撃がかかるか、わからないんだから」 私がそれを心配していたんだがな。 「少し変わったな……ミーナ」 「そう?……あなたほどじゃないわよトゥルーデ」 フフッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。 「最近気になってる子猫ちゃんがいるんじゃないかしら?」  う。 「フラウほどじゃなくても、アナタのことは分かっているつもりよ? 傍にいてあげなさい」  ・  ・  ・  ・ 「おートゥルーデ。肉喰うか肉」 さっき以上の火力で、バニーガールが肉を焼いている。シュールな光景だ。 なんでもクジに書いたら自分で引いてしまったらしい。 「いや…その、ルッキーニはどこに行ったんだ?」 「あれ?さっきまでここにいたんだけどなー?なんか用なのか?」 いや、用というかなんというか…なんと言ったものかな…。 ニヤニヤ ニヤニヤ 「…その顔はやめてくれ」 「んー、こういう場でははしゃぎまくって目立つんだけどなぁ。どこ行ったんだろ?」 そこまで言って、ハッとした顔になるシャーリー。 「あ、今日は…! トゥルーデ。早くルッキーニにとこに行ってあげな」 「うん?なにかあるのか?」 「いいから! アタシは肉焼いてるから!」  ・  ・  ・  ・  ・  ・ 結局、サーニャに探して貰った。 基地内の最上階のあたりにそれらしい人間がいるらしい。 一体なんでそんなところに? 階段を上がったところで、窓辺からぼんやりと会場を眺めるルッキーニが見えた。 「…どうしたんだこんなところで?」 「うゅ? トゥルーデ?そっちこそどうしたの?」 お前に会いにきた……と、正直に言えない自分がもどかしい。 「皆の所にいかないのか?楽しそうだぞ?」 「う〜ん……あのね今日、アタシの誕生日なんだ」 ほう?12月24日が誕生日?そうだったのか。 しかし、 「だったら尚更皆のところにいけばいいじゃないか、皆祝ってくれるぞ?」 「うん…そだねー。 でも、やっぱりクリスマスはみんなのものだよ」 よく言ってることがわからない。 クリスマスも誕生日も一緒に祝って貰えばいいだけの話じゃないか。 「シャーリーもよしかも、みんなも優しいから祝ってくれるんだろうけど、  なんだか…アタシが、みんながお祝いできるクリスマスを邪魔しちゃうような気がして」 「…………」 ギュッと後ろからルッキーニを抱き寄せる。 いつか嗅いだ、太陽の匂いを感じた。 「バカだな…そんなことないさ」 「そうかな…?」 「誕生日っていうのは、その人が生まれた一番大切な日だ。シャーリーも宮藤も……私も嬉しいに決まってる。」 「………ホント?」 「楽しいことなら、いくつあったって嬉しいんだよ。」 こんな世の中なら尚更な……。 「誕生日おめでとうルッキーニ…メリークリスマス。」 「ありがとうトゥルーデ……メリークリスマス。」 そうして私達は、二人きりのプレゼント交換をした。 ブリタニアでも、冬は寒い。 しかし今、彼女の唇から伝わってくる暖かさは、やがて訪れる春を感じさせてくれる。 世界中に春……平和がやってくるように祈りを込めて、私達の12月24日が過ぎていく。 誕生日プレゼントと一緒にしてしまって、悪かったかな?  ・  ・  ・  ・  ・  ・ 「え!?ルッキーニちゃん今日が誕生日なの!?スゴーイ!」 「おめでとう〜ルッキーニちゃん!」 「なんでだまってたんだヨー」 「エッヘヘ〜すごいだろ〜!」 「よ〜し、肉喰おうぜ肉!!」 やはりルッキーニはああやってみんなの輪のなかにいるのが一番似合うな。 天真爛漫なところがお前のいいところで、そんなところを……私は好きになったんだ。 シャーリーがいい笑顔でこっちにサムズアップしている。 私もそれにグッと親指を立てて返す。 全部分かっててアイツは私を焚きつけるから、困ったものだ。 つい苦笑してしまう。 さて。 「なあハルトマン」 「なにかなトゥルーデ」 「さっきからずっとルッキーニが着ている格好はなんだ」 「ボンテージに私は見えるね」 「なぜあんな格好をしていると思う」 「クジに書いてあったからだろうね」 「お前か」 「私だね」 全部分かっててコイツは犯行に及ぶから、困ったものだ。 困 っ た も の だ よ !! ※※※※ ルッキーニ誕生日&クリスマス記念。 以前より短めでしたが、読んでくださった方、ありがとうございます。 5回目があるかはいつも通り謎の方向で。 予告した三話の外伝は絶賛未完成中……。 坂本エイラはだれか絵にするか、SS書いて欲しいなー、と思うほど自分の中でヒットしました。 絶対似合うって!!