よしこ×エイラSS 12月24日 エイラ視点 「……はぁ」 溜め息。 あっという間に時間が過ぎて、今日はもう12月24日、クリスマスイブだ。 サーニャへのプレゼントは買ってきた。ルッキーニへのプレゼントだって万全だ。 ミヤフジへのプレゼントも……散々迷ったけどなんとか間に合った……はずなんだけど。 ……正直言うとまだあれでいいのか不安だったりする。 ホントにあれで喜んでくれるのかな。なんかこう、もっとかわいい小物とかの方が良かったんじゃないかな。 用意しなおす時間なんて無いのに、今更そんな事ばかり考えてしまう。 期待と不安がないまぜになって、コーヒーに落としたミルクみたいに私の中でぐるぐる螺旋を描いていた。 「……はぁ」 また溜め息。 きっと喜んでくれる。きっと、たぶん、恐らく、まぁ、もしかしたら……うぅん、やっぱ不安だ。 ……ええい、もういい加減腹を決める事にしよう。今更どうあがいた所でもう今日という日は来てしまったんだから。 それよりも、今はまず目の前の問題を片付ける事が先決だ。 「じんぐっべ〜、じんぐっべ〜、すっずっが〜なるゥ〜♪」 やかましいくらいに調子っ外れで陽気な歌声が、すぐ隣から聞きたくも無いのに聞こえてくる。 いや実際やかましい。普段からうるさい奴だとは思ってたけど今日は2割増しくらいにやかましい。 「元気だなぁルッキーニは」 きんきんと耳の奥に響いてくる歌声を遮って、2割ほど皮肉を込めて言った。 いろいろ不安を抱えてる私とは対照的に、ルッキーニは朝からハイテンションでノリノリだ。 お祭り好きなロマーニャ人の血が騒ぐのか、それとも単に嬉しいだけなのか、準備中からこんな状態で本番中に疲れてしまわないか不安になる。 「ルッキーニは誕生日なんだから大目に見てやってくれよ。ほら、エイラがいつも言ってるあれ」 一緒に飾りつけをしていたシャーリーが嗜めるように笑った。 まぁ、いいけどさ。今日は特別だかんな、ルッキーニ。 「……はぁ」 溜め息ひとつついてだんだんと飾り付けられていく会場を見回した。 昨日までツリーひとつだったってのに、モールやら電飾やらでっかいテーブルやら、それなりにパーティーって感じになってきている。 気持ち良く寝ているところを叩き起こされて手伝わされた時はぶつぶつ言ってたけど、 こうやって形になっていく様を見ていると満更でもないな、とか思ってしまう。 そんな考え直しをするたびに、つくづく私って単純な奴だな、と思う。 空を見上げてみると、青いような白いような、スオムス空軍の制服みたいなぼやけた冬の青空が広がっていた。 雨が降らなくてよかった。この空模様なら夜まで晴れてくれそうだ。 ……まぁ、雪が降らなさそうで少し物足りないな、とは思ったけど。 「ここらで休憩挟むかー」 脚立に腰掛けたシャーリーが大きく伸びをした。 突き出されて強調された巨乳が揺れる。……相変わらずでっかいなぁ。 「きゅーけーい!実はちょっと飽きちゃってさ〜」 「人に手伝わせておいて真っ先に飽きるなよー」 真っ先に休憩モードに入ってシャーリーにじゃれつくルッキーニをじろりと睨みながら言った。 まぁまぁわはは、と笑いながらルッキーニにされるがままになるシャーリー。形のいい胸がぷにょぷにょと形を変えていく。 「……真昼間から見てるこっちが恥ずかしくなるくっつきっぷりだなー」 「いーじゃーん、ただのスキンシップってやつだよ〜」 ウソつけ。ただのスキンシップで人前だってのにそんな過剰にベタベタする奴があるか。 それともロマーニャやリベリオンじゃこれが普通だとでも言い出すのか。……いや、普通っぽい気がしてきた。 ロマーニャの男は女を口説かないと死んでしまう生き物だって聞いたし、リベリオンじゃ挨拶代わりにハグやキスを当たり前のようにするという。 よくよく考えてみればなるべくしてなったコンビなのかな、この二人は。 「エイラも羨ましいなら胸に飛び込んできてもいいんだぞー?」 「だ、誰が飛び込むか!」 そうは言うものの、その豊満なボディに興味がまったく無いと言えばウソになる。触ってみたいとか、顔を埋めたいとか、思った事も……まぁ、あるし。 けどいいんだ。私は、それよりも柔らかくて温かくて、愛しいものを知ってるから。 ……なんて思って、少し気障すぎるかなと、顔が赤くなる。 「冗談だってのにそんな真っ赤にならんでも……最近こういう事への耐性がなさすぎるぞーエイラー」 「エイラかわいー♪」 「うううううるさい!違うってば!」 ああ顔が熱い。ミヤフジが「エイラさんの事を考えるとあったかい」とか恥ずかしい事を言ってたけど本当だった。 私を呼ぶ声とか、抱き締めた時の温もりとか、柔らかさとか。思い浮かべるだけで幸せな気分になって身体がぽかぽかしてくる。 なんだこれ、防寒具いらずじゃないか。困ったな。どうしよう。 「みなさーん、そろそろ休憩にしませんかー?」 背後から響く声に振り向くと、遠くで元気に手を振る小っちゃい彼女。 その姿をみとめた瞬間、かぁ、と更に赤面した。 「……ははぁん」 「な、なんだよその顔は」 シャーリーが「なるほどな」という顔で嫌な笑顔を浮かべていた。 「いやーなんでもー?ほれ、宮藤もああ言ってるし休憩にすっかー」 そう言いながらぽんと肩に手を置かれた。たぶん、「からかって悪かったよ」って意味なのだろうか。 意図は掴めなかったけど、スタイルだけでなく性格までグラマラスだな、シャーリーは。 ……ホント、この基地にはいい女が多すぎる。 「ヨシカー!お茶請けなーにー?」 「宮藤ぃ、あたしコーヒーねー」 前を歩く二人を追いかけながら、犬の尻尾みたいに腕をぶんぶん振る彼女に向かって手を振り返した。 「ヴェー…にがーい」 マグカップから顔を上げて文字通り苦い顔をするルッキーニ。 慌てたように、用意された甘いお菓子を口に放り込む。 「……何もルッキーニまでコーヒーにしなくても」 やめとけって言ったのに私もシャーリーもミヤフジまでコーヒーを選んだもんだから「じゃああたしもそれ!」とか。 ルッキーニのお子様舌にはちょっと難しい味だったかな。 「あはは、ルッキーニにはまだ早かったなー!」 「はい、お砂糖とミルク」 ……そういえばもう一人お子様舌がいたのを思いだした。 当のもう一人のお子様はミルクをついーっと流し込んで、角砂糖をいくつも落としている。 「ミヤフジも無理しなくていいのに」 「んむ?」 小さめの手とは対照的に大きなカップに口をつけて、髪と同じ色の液体を口に流し込んでいるミヤフジ。 カップから口を離してぺろりと唇を舐める仕草にちょっとドキッとした。 「これでもちょっとづつお砂糖とミルクの量減らしてるんだよ」 膨れっ面で抗議してくるミヤフジ。かわいい。 私の中の豆キャベツ大の嗜虐心が出番とばかりにむくむくと大きくなった。 「ホントかー?その割にはどぼどぼ砂糖入れてたけど」 「ほんとだよっ!この前は5つだったけど今日は4つだよ!」 「あんまり砂糖入れすぎると太っちゃうぞー」 「むぅ、エイラさんのいじわる!」 「……お前らほんと仲いいなー……」 会話に割り込んできたシャーリーの台詞にミヤフジと二人でびくりとした。 「らぶらぶってやつだね〜シャーリー!」 「ははは、こーいうのはイチャイチャって言うんだよルッキーニ」 「わあぁ!やめろってばか!」 何教えてんだシャーリー!話するくらいふつうだろ! 「えへへぇ……」 「……ミヤフジもナニ満更でもない顔してんだよ」 あーくそ、憎たらしいくらいにかわいいなぁもう。 シャーリーとルッキーニの前じゃなかったらぎゅっと抱き締めてやるのに。 「向こう向いててやろうか?エイラ」 「うじゅ?なんでー?」 「う、うっさい!」 私の様子に気づいたらしいシャーリーが、気を利かせたようににやにや笑いながら言う。 余計なお世話だよ!変な気回しやがって……。 ……うー、やっぱ向いててもらおうかな……。 「あははは、ヘタレだなーエイラは」 おもしれーとか言いながら、けらけらと笑うシャーリーを恨めしく見つめる。 「…………」 ……すぐ近くにいるのになぁ。 ちょっと手を伸ばせば抱き寄せられる距離にいるのに、その十数センチが異様に遠い。 いや、遠ざかってるのは私自身なのかな。もう少しだけ勇気を出せばできるかもしれない。 今ここで抱き寄せたら、ミヤフジはどう思うかな。 照れる?嫌がる?嬉しい?突っぱねる?身を任せてくれる? ポジティブとネガティブがからかうように交代交代で顔を出して、私の心を引っ掻き回す。 そして結局、私は何も出来ないでタイミングを見失うんだ。 「……ふん、どうせ私はヘタレだよ」 照れ隠しに鼻を鳴らしてコーヒーを一口啜った。 「あはは……そ、それにしても結構様になってきましたねぇ」 苦笑いを浮かべていたミヤフジが、だんだんと形になっていくパーティー会場を見回して言う。 日の出が遅いとはいえ、夜明け前から今の今まで作業してたんだ。手が3人しかいないけれどこれくらい進んでなきゃそれこそ日が暮れてしまう。 「まぁのんびりやるさ。んで?料理の方はどんな感じよ?」 「あたしの誕生日なんだからドーンと派手なのお願いねっ!」 色気より食い気の二人。仲が良いのはどっちだよ、まったく。 「ペリーヌさんが高級そうなガリア料理をリーネちゃんと一緒に作ってましたよ」 「あれ、ミヤフジは手伝わないの?」 素朴な疑問を投げかける。 ミヤフジの料理の腕は確かなはずだ。味も見た目も好みだし、みんなも美味い旨いと言って食べていたはずだけど。 ……ナットウ以外は。 「あー、えっと……あはは、わ、わたしって扶桑料理以外はからっきしダメで……」 「ヨシカって変なトコ不器用だよねぇ」 ……あぁ納得。 いろんな奴に料理のレシピを教わってるようだけど、扶桑料理以外が出てきたためしがない謎が解けた。 「んー、でも扶桑料理も作ってくれるんだろ?準備とか下ごしらえとかいらないの?」 「今日作る予定の料理はどれもあんまり下ごしらえとかいらないから……その場で焼いたりするものだし」 「あー、そういや鉄板一枚貸してとか言ってたなぁ、宮藤」 シャーリーが思い出したように口を開いた。 そういえばシャーリーはバーベキューをするんだっけ。 なにやらでっかくて旨そうな肉の塊を厨房に運んでいたのを見かけた覚えがある。 「うん、だからなんだか暇になっちゃって、こうして休憩です」 照れ臭そうに肩をすくめて、また甘いコーヒーを口にする。 「ふぅん。じゃあこっち手伝うか?」 「あ、じゃあ手伝おうかな」 何の気なしに、思ったことを言った。 手は多いに越した事は無いし、ミヤフジも暇だってんならちょうどいい。 何より一緒に居れると内心少し喜んでいたりする。 だってのにシャーリーは、「いやいや、ここはもう手は足りてるからいらないよ」なんてぬかしたりしやがった。 「なんでだよ、4人でやったほうが早く済みそうじゃないかー」 思わず不満をぶつけた。 「ここはあたしとルッキーニでやっとくからさ、君らはのんびりしてなよ」 「へっ?」 「でも……」 「えー!さっさと終わらせて遊ぼうよーシャーリー!」 シャーリーの言う「足りてる手」の中に私が入ってない事に驚く私。 自分一人だけ暇なことに罪悪感を感じてるのかすまなさそうなミヤフジ。 つまんなーい!といつものように手足をじたばたさせているルッキーニ。 三者三様の反応。 「急いで終わらせるのもいいけどさ、のーんびりだらだらやるのも、たまにはいい」 そう言ってガーデンチェアにもたれかかるシャーリー。 のんびりだらだら、ねぇ。確かにほとんど飾りつけも終わってこのままいけば昼までには終わってしまいそうだ。 私は作業を手早く終わらせて残った時間をのんびり過ごそうと思ってたけど、作業自体をのんびり進めるという考え方もあるのか。 なんでもかんでも早けりゃいい人だと思っていたけど、意外にも緩急メリハリのある性格なんだな、シャーリーって。 「そんなもんかにゃー?」 「そーそー。そんなわけだからお二人さんはのんびりデートでもしてきなさい」 「シャーリーっ!?」 「シャーリーさんっ!?」 な、なんだよそれ!? 「朝っぱらから叩き起こされたかと思えば、もういいから帰っていいよとか私を何だと思ってるんだよ……」 「あはは、暇な人、かなー?」 「わぁ辛辣」 ミヤフジまでなんて事言うんだ。 確かに私は昼間の訓練にはあんまり顔を出さないし、昼過ぎまで寝てたりするけど、それは必要な事なんだぞ。 私はサーニャと基本ロッテを組んでるからサーニャに何かあった時にすぐ動けるように夜は起きてることになってるし、 サーニャの代わりに夜間哨戒に出たりもしてるんだぞ。だから決して暇というわけではないのです。 そう、とくとくと説明してやった。 「でも一人は暇なので、私が寂しがらないように寝る前に話し相手になってください」 「うん、わたしでよければいつでも」 そう応えてくれて、えへへと頭を掻く仕草。 ……そこは照れるところじゃなくて笑うところだろ!……なんか、こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか。 「……ミヤフジでいいんじゃなくて、ミヤフジがいいんだよ……」 「うん?」 ぼそぼそと呟いた言葉は小さすぎて、生憎彼女の耳には届いていなかったようで、 ほっとしたような、残念なような。なんかむず痒い感じ。 「な、なんでもないっ」 不思議そうに私を見上げるミヤフジの顔を直視できなくなって、慌てて歩を進めた。 たぶん赤くなってる顔を見られるのが恥ずかしかったから。 待ってよ、と飲み終わったカップやらを載せた台車をがらがら押しながらとてとてと追いかけてくる彼女。 子犬に懐かれてどこまでも付いて来られるような感じで、なんかほわほわする。 ミヤフジが追いついてきたので歩幅を合わせる。私の顔も少しはましになっただろう。 「どうしたの?急に」 「なんでもないって」 照れ隠しにぽんぽん、と頭を軽く叩いてそれから撫でた。 さらさらした髪のさわり心地の良さと、ミヤフジの温度が手の平から伝わってきてじんわり胸の真ん中があったかくなる。 その感覚が心地良くて、やめ時を見失ってひたすらその栗色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。 「……?」 「撫でるの、好きだから」 そう言うと一瞬置いて、少し頬を染めたミヤフジが笑い返してくれた。 よかった。髪が乱れるから、と嫌がられるかと思ったけれど杞憂だったらしい。 「わたしも、撫でられるの好き」 ああもう、そんな太陽みたいな笑顔を向けられたら私はどうしたらいいんだよ。 辛抱たまらなくなって、思わずそのさわり心地のいい頭を引き寄せた。 「わ……っと」 ミヤフジは驚いたように小さく声を上げたけど、すぐに落ち着いてくれた。 むうぅ、と少し唸って、楽な姿勢まで身体を動かして、静かになる。 しんとした沈黙の中でどきん、どきん、と互いの鼓動が混ざり合う。 「ごめん、こうしたくなった」 先に口を開いたのは私のほうだった。衝動を抑えられませんでした、と素直に白状する。 だってだって、すごくかわいいんだ。私に向けてくれる笑顔とか、声とか、全部、ぜんぶが。 「……えへへぇ。やっと、してくれた」 「いつもしてるだろー?」 思い返すと少し照れるけど、毎日こうしてるじゃないか。 私の腕の中でもぞもぞ動いて、背中に手を回してきた。きゅっと軽く締め付けられる感覚が心地良い。 「今日、はじめて」 そんな事言われたら何て返したらいいかわからなくなる。 私だってできるならすぐこうしたかったよとか、タイミングが無かったんだとか、 そもそも起きてすぐあの二人に捕まったから会えなかったんだとか、いろんな言葉が頭の中をぐるぐる走り回った。 けどどれもこれも言い訳じみててかっこ悪くて使えないものばかりで、結局私は、 「……むぅ」 と唸る事しかできなくて、そのうちやっぱり言うタイミングを見失って、押し黙る。 今更言い訳するのもなんか癪なので、今日はじめてなんだから、と思いっきりぎゅーっと抱き締めてやる事にした。 「ん……もっと」 「痛くないか?」 「ううん、痛いよりも、嬉しいから」 えへへなんて笑いながらそんな事を言い出すミヤフジ。 なんだよ、こっちまで嬉しくなっちゃうだろ。 「……ばーか」 ばかだよ、ミヤフジは。そんなこと言われたら、私なんかのか細い理性なんて簡単にぷつりと切れちゃうじゃないか。 もう「離して」って言っても離すもんか。私が満足するまでずっとこうしててやる。 「エイラさん、どきどきしてる」 「あたりまえだろー?」 だってもうどうしようもなく抑えられないくらい、きみのことが好きなんだから。 「あら、暇そうですわね」 「うるせー」 皮肉を言われて思わず返した言葉がそれだった。語彙の少なさに我ながら呆れる。 飲み終わったカップやらなんやらを片付けようと、二人で厨房に足を踏み入れると、ふわりと何か、海鮮系のいい匂いが漂っていた。 見ると、どうやら海老か何かをぐつぐつ煮込んでいるところのようだった。 「よしかちゃんおかえり〜」 「ただいま、リーネちゃん、ペリーヌさん」 軽く挨拶を交わすミヤフジたち。 すたすたと水場まで歩いて手早く台車に載せたカップをシンクに置いた。 「で?会場の設営は終わりましたの?」 「えと、まだですけど手は足りてるから〜って、追い返されちゃいました」 「そうそう、だからこれ終わったらデート。いいだろ?」 ぶっ、と吹き出すペリーヌ。汚いな。料理してるんだからそういうのやめろよな。 ミヤフジと一緒にスポンジに洗剤を染み込ませて、ほぐして泡立たせる。 「エ、エイラさん?」 「仲が良いですねぇ」 「いいいい良いご身分ですわね!」 にこにこしているリーネとは対照的に、おおいに取り乱すペリーヌ。 こいつはからかうとちゃんと反応を返してくれるからいじってて面白い。そういう意味では、ミヤフジとどこか似ているのかもしれない。 もっとも、見た目も性格もぜんぜん違うのだけれど。 カップを泡立てたスポンジで擦った。白かった泡が少しだけ茶色に染まる。 「ミヤフジは私とのデート、嫌か?」 豆鉄砲を食らったハトみたいな顔をしてるミヤフジもいじってやろう。 さて、どんな反応が返ってくるかな。 「そ、そうじゃないけど……」 あー、もじもじしちゃってかわいいなぁ。 思わず頭を撫でたりしてあげたい衝動に駆られたけど、今私の両手は泡だらけだ。我慢我慢。 それでもやっぱりミヤフジに触れたいという気持ちは消えなかったから、しょうがないので空いてる頭をこつん、と軽くぶつけることにした。 「ひゃん……も、もー!びっくりしたじゃない!」 「へへへ」 ちょっと驚いて、すこし怒って、そのあと笑ってくれた。 かわいい、かわいい。反応がかわいい。ころころ変わる表情がかわいい。 もっともっと触れたいからさっさと洗い物を終わらせてしまえばいいのに、なんかこの時間が終わるのがもったいなく感じた。 シャーリーの「のんびりするのもたまにはいい」という言葉を思い出す。 なるほど、こういうことなのかと、今更ながら納得した。 うりゃ、ぐりぐり〜とか言いながら頭を擦り付けると、やめてよー、なんて笑われた。 じゃあやめる?って聞くと、もっとして、とか。もう、どっちなんだよミヤフジ。 「……いちゃつくんなら他所でやってくださいませんこと?」 「はぁ……難易度高い……」 背後から、明らかに苛ついた声と恍惚とした声。 振り向かなくてもどんな顔をしてるのかわかるのは便利でいいかもしれない。それくらいわかりやすい二人だ。 「ふふん、いいだろ?」 「ええ!ええ!そうですわね!ところで貴女はパーティーの準備はお済みですの!?」 「済んだよ。だからこーして暇してるんだよ」 あんまり自信は無いけど、今更言っても何にもならない。 ならもう、全力でそれをやるだけだ。 「エイラさんも何か出し物するんですか?」 「ん、秘密〜……ぶわっ!?ぺっぺっ!に、にがっ!」 リーネの質問に、いつかのサーニャの真似をして人差し指を唇に当てたら泡がついてしまった。 慌てて吐き出そうとしたら舌について、さらに大惨事になる。 「わわ!エイラさんお水!」 「でかしたミヤフジ!……もがごぼぼっ!?」 「……なにやってますの……全く」 「あははは」 のーんびりと、だらだらと。 ドジやったり笑ったり、そんな暇な時間を思いっきり楽しむ。 ……そういう予定だったのになぁ。 「観測所より入電、本日1030時、ガリア方面からネウロイ一機の出現を確認。高度は三千。かなりの低空よ」 淡々と、判明している情報をブリーフィングするミーナ隊長。 そうなのだ。よりにもよって、今日という日にネウロイが出現したのだ。 「……前の出撃から3日しか経ってないじゃないか。狙ってやってるのか?奴らは」 お祭りに水を差された、という感じに苛ついて喋るサカモト少佐。 ブリーフィングルームに集まったみんなの顔も、心なしか不満げだ。 いや、思いっきり機嫌が悪い。かく言う私も気分は最悪だ。 せっかくのクリスマスなのに敵が襲来して、パーティーの準備は一時中止。おまけにミヤフジとのデートもお預けときた。 腹が立たないわけがない。 「もし狙ってやってるなら相当に性格の捻じ曲がったネウロイね。もっとも、ネウロイに性格ってものがあればの話だけど」 「ミーナが冗談を言うとはな。余程頭にきてると見える」 ははは、と笑うけれど、目が笑ってない。ちょっとどころか、物凄く怖い。 ミーナ隊長もご機嫌斜めだ。戦闘前の凛々しい表情ではあるけれど、なんだかピリピリしてる。 隊長と少佐の二人で今日の定例報告やらなんやらの雑多な仕事を受け持ってくれたというのに、ネウロイはホントに空気が読めてない。 「バルクホルンとハルトマンは非番で外出中か……戦力低下は否めないがこのまま出るしかないな」 サカモト少佐がブリーフィングルームを見回した。確かに我が隊のトップエース二人が欠席となれば戦力大幅ダウンだ。 前衛でバリバリ立ち回れる奴と言えば私と、ミヤフジと、シャーリー、ルッキーニ、ペリーヌ、ミーナ隊長あたりか。 サカモト少佐はシールドを失っているから……言い方は悪いけど戦力外だ。……さて。 「……サーニャ、出れるか?」 「はい。昨夜は哨戒に出ていませんから」 「よし、今日の搭乗割りはシャーリー、ルッキーニが前衛、サーニャと私が後衛、後衛のバックアップにエイラでいこう」 「残りの皆は基地で待機です」 了解、とその場の全員が返答した。 まぁ、妥当というか、ネウロイの妙な動きから陽動のセンも考えての戦力分散でこういう配置になったのかな。 けどこっちのチームにはサーニャとサカモト少佐がいる。どうやら短期決戦でコアを潰す作戦らしい。 ……とにかくどんな配置だろうと、さっさと全力で叩き潰すだけだ。 こんなやる気満々のみんなを見るのは初めてかもしれない。 それくらい、みんな今日という日を楽しみにしていたんだから。 白っぽいような、青いような、中途半端な色の空に出た。 雲はまばらで、風も穏やか。戦いの舞台としてはもってこいだ。 「サーニャ、大丈夫か?眠くないか?」 「うん、平気。いっぱい寝たからだいじょうぶ」 ごおおお、という風を切る音に混じってインカムからサーニャの返答が聞こえてくる。 ちらりと振り向いて確認してみる。顔色も悪くないし本当に大丈夫なようだ。 「そっか……うん、さっさと終わらせてみんなでクリスマスパーティーしような?」 「うん」 「私語は慎まんかお前達。作戦中だぞ」 「はーい」 「……すみません」 サカモト少佐に怒られたけど、ちゃんと最後まで会話させてくれたような気がする。 豪快で鈍感なように見えて、妙に気配りの出来る人なんだよなぁ、この人は。 ミヤフジやペリーヌやみんなに慕われるのも十分に頷ける。 「……そろそろ作戦中域だ。サーニャ、頼む」 「了解」 そう応えたサーニャの頭の両脇にグリーンの魔導針が浮かび上がって、魔力の粒子のようなものがきらきらと宙に舞う。 サーニャが目を閉じる。飛んでいる最中に目を瞑るなんて普通ならありえないけど、大丈夫。サーニャには全部「視えている」。 「……あれ……?」 ……はずだった。 「……観測所からの報告によると、貴女達が基地を飛び立った直後、目標のネウロイは姿を消したそうよ」 「まさか。ありえない。ちゃんと説明してくれ」 「言葉の通りよ。目視できなくなった、ってこと」 「……また奴の嫌がらせか、誤報か、それとも本当に消えるネウロイなのか」 「さぁ……とにかく警戒態勢を敷きます。悪いとは思うけど……バルクホルン大尉とハルトマン中尉も呼び戻すわ」 「まったく……とんだクリスマスだな」 「なんだってんだ……まったく」 予想外に静かだったドーバーからとんぼ帰ってデブリーフィングして、遅めの昼食をとって愚痴った。 ……そりゃあ愚痴だって出る。嫌がらせにも程がある、っていうか、ネウロイのからかわれてるんじゃないのか、これは。 もうすぐ哨戒に出てるリーネとペリーヌとミヤフジが帰ってくる頃だろうか。 帰ってきたら、ついさっき基地に戻ったバルクホルン大尉とハルトマンが交代で出ることになっている。 ……というかバルクホルン大尉が怖かった。鬼気迫る、っていう表現がまさにふさわしいというか、見たことは無いけど本当に鬼みたいだった。 いつもクールで険しい表情をしてるとは思ってたけど、あんな顔初めて見たよ……。 恐ろしいものの記憶を振り払うように、ちら、と窓の外を見ると、もう日が傾きかけていた。 やばいな、ただでさえ「見えない敵」と戦うことになるかもしれないのに、日が落ちたらさらにこちらの分が悪い。 「……ごめんね……」 「へっ?な、なにが!?」 傍らに腰掛けていたサーニャにいきなり謝られた。 何に対して謝ったのか、誰に対して謝ったのか、そもそもサーニャが何か悪い事をしたのか。 考えてみても思い当たらなくて、なにがなんだかわからなくなって、しどろもどろになりながら理由を聞いた。 「エイラ、焦ってる。……「やばいな」、って。私がネウロイを見つけられなかったから……見失ったから……」 「ば、ばか!何言ってるんだよサーニャ!サーニャがネウロイを見失ったんじゃないよ!ネウロイが消えたんだよ!」 思わず「ばか」、なんてひどい言葉を叫んでしまっていた。 知らず知らずのうちに思っていたことが口に出ていたんだろうか。それをサーニャに聞かれていたんだろうか。 聞かれていたことに関しては私は問題ない……けど、なんでそんなにサーニャがすまなさそうなんだよ……。 サーニャは何もしてないじゃないか。これっぽっちも、悪い事なんてしてないじゃないか。 「そうだよ!さーにゃんは悪くないよ!」 向かいに座っていたルッキーニも一緒になって励ましてくれる。 こいつがこんなに頼もしいと思えたのは初めてだった。 ルッキーニだって……誕生日をネウロイに台無しにされたってのに。本当に落ち込みたいのはそっちだろうに。 「うん……ありがとう、エイラ、ルッキーニちゃん」 ミヤフジとはさわり心地の違うふわふわした髪を撫でて励まして、どうにかこうにか、やっとサーニャに笑顔が戻った。 思わずふぅ、と安堵の溜め息が漏れる。 ……もうサーニャに悲しい顔をさせないためにも、早く出て来いネウロイ。 早く倒して、不安を解消して、みんなでクリスマスを祝うんだ。ルッキーニの13歳の誕生日を祝うんだ。 いつもは来るななんて思っているのに都合の良いときだけ来いだなんて、滑稽もいいところだった。 「どうだった?」 少し肌寒いハンガーで、哨戒から帰った三人を出迎えて、ダメもとで聞いてみる。 「この顔が大戦果を挙げて帰ってきた顔に見えますの?そうだとしたら、いい眼鏡屋を紹介いたしますわ」 様子を聞いただけなのに、思いっきり皮肉で返された。今日のペリーヌのツンツン具合は絶好調みたいだ。 「……ドーバー海峡は静か過ぎて、なんだか不気味なくらいでしたよ」 リーネも心なしか焦っている……というか苛だっているように見える。 いつも温和なリーネが苛つくなんて珍しい。それくらい、今日という日が大切だっていう証拠だった。 「エイラさん……わたし、悔しいです」 「わたくしだって、非常に腹立たしいですわ」 リーネが下唇を噛んで、ペリーヌが眉を吊り上げた。 聞いてる私だって、悔しくて腹立たしい。こっちから攻勢に出れずにただただ再出現を待つだけだなんて。 待つ、って行為は思ったよりキツかった。 どうにかこちらから攻めに出れる方法は無いものかと考えを巡らせていると、 「……ふぇ、ふぇっ……くしゅ!!」 ……なんだか能天気なくしゃみの音が、苛々のみっちり詰まったハンガーに響いた。 音源の方を見ると、ずるずると洟をすすって「あうぅ」とか言いながらかたかた震える子犬が一匹。 見ている私たち三人も思わず言葉を失って、しん、と静まり返る。 「……ぷっ」 一番最初に決壊したのはリーネだった。 つられて私も大笑いして、ペリーヌなんか笑いながら怒っている。器用だな、ツンツンメガネ。 「ひ、ひど!?寒いものは寒いんだから仕方ないじゃない!三人とも!!」 「だ、だってぇ、よしかちゃんったら、かわいいんだもん」 「ほんと、能天気な人ですわね!今は作戦待機中ですのよ!」 確かに呑気というか、ミヤフジらしいというか。 みんなあんなに腹を立てていたのに、偶然の出来事とはいえ一瞬で空気を変えてしまった。 ホントすごい奴だよ、ミヤフジは。 「寒いのか?」 両肘を抱えて、水を被ったみたいにぷるぷる震えるミヤフジに聞く。 「さ、寒いよ!ストライカーを履いてる時はそうでもなかったけど、魔法を解いたとたんに寒くて寒くて……!」 「じゃ、あっためてやるよ」 「ふぇっ!?」 震えるミヤフジを引き寄せて、両腕で固く抱き締めた。 「わ……エイラさんったらだいたーん」 「……前言撤回。能天気な人たちですわね……」 後ろでリーネとペリーヌが見てるけど、そんなのもう関係ない。 ミヤフジが、私の好きな人が目の前で寒がってるんだから、暖めてあげるのが私の義務だ。 ……実はまだ少し、恥ずかしいけれど。 「エ、エエ、エイラ、さん?」 「あったかいか?」 「ああああ、あったかい……け、けど……み、見られてる、よ」 「関係ないよ。私がこうしたいからこうしてるんだ。それともミヤフジはこうされるの、嫌か?」 「ううぅ……ず、ずるいよ、エイラさん……」 抱き締めた私よりも一回り小さな身体がどきどきと脈打って、だんだんと熱を帯びてくる。 私がミヤフジを暖めてるんだ、って考えると、なんだか少し誇らしかった。 「ペ、ペリーヌさぁ〜ん!引っ張らないでくださいぃ〜!!」 「あぁもう!空気の読めない方ですのね!さっさと行きますわよ!」 首だけ回して振り向くと、ペリーヌがリーネの腕を引っ張ってハンガーの出口まで歩いていくところだった。 気を利かせてくれたのか、見るに耐えなかったのか。まぁ、どっちにしろありがたい。 こう見えて私だって心臓が破裂しそうなくらいにばくばく言っていたりする。 うむむ、まだまだヘタレという汚名を返上するのは遠いみたいだ。 「……ばか、ばかばか、エイラさんのばーか!」 「ばかってなんだよー、ばかってー」 謂れの無い罵倒の嵐。……いや、まぁ、確かにちょっと大胆すぎたかなぁとは思うけどさ。 「すごく恥ずかしかったんだからね!朝の何倍も!」 「ぶっちゃけると、私も恥ずかしかった」 「……知ってるよ。エイラさんの胸、すごいどきどき言ってるもん」 バレてた。まぁ、当然っちゃ当然か。こんなに密着してるんだから。 けど、口にする台詞がまったくどもってないのは大きな進歩かな、とは思う。 リーネとペリーヌには気づかれてなかったみたいだし、名演技じゃないかな。 「けど、やっぱりエイラさんにこうして貰うと、すごく嬉しい」 「私だって、ミヤフジを抱き締めると、凄く幸せだよ」 背中に回した腕に力が篭もった。 「あ、そういえばまだ言ってなかったっけ」 「なぁに?」 ミヤフジが今まで私の胸に埋めていた顔を上げた。……ちょうどいいや、もうこのまましちゃおう。 「おかえり、ミヤフジ」 そう言って、今日まだしてなかったキスをした。 ミヤフジの両目が驚きで見開かれる。顔を真っ赤にして、ちょっといじわるな言い方かもしれないけどすごくかわいいよ。 ……って、やっておいてなんだけど、これじゃ口が塞がって返事が聞けないんじゃないのか。 早まったかなぁ、と思ったけど、 「ひゃらいま、ん、へいりゃはん」 キスしたまんま喋るんじゃないよ、ミヤフジ。……そうさせたのは私だけどさ。 ……まぁ、いいか。うん。幸せだし。 誰も居ないからって、ハンガーのど真ん中で抱き合ってキスするなんて、もしかしたら前代未聞なんじゃないかな。 けど、冬の寒さも感じないくらい暖かくて幸せだったんだ。 ホント、作戦待機中に何やってるんだろうな私たち。 あー、ホラ、あれだよ。クリスマスなんだし今日だけだから許してよ。 午後四時。日も完全に落ちて、待ちに待ったクリスマスの夜がやってきた。 けれどそれは聖夜と呼ぶにはピリピリしすぎて、祝ったり楽しんだりできるような状況には程遠くて、なんとも言いがたい空気に包まれていた。 そんな微妙な空気の中、状況を一変させるような言葉が隊長の口から放たれた。 「パーティーしましょう」 どちらにしろ待つしか手が無い訳だから、その待つ時間を有意義に活用しましょう。 哨戒当番の人には悪いけれど、せっかくのクリスマスなんだから思いっきり楽しみましょう。 そうとだけ言って、快く引き受けたシャーリーを連れて哨戒に行ってしまった。 思い出したように最後に「もしかしたら飛ぶ事になるかもしれないからお酒だけはダメよ」とだけ付け加えて。 「……マジでいくつなんだあの人……」 「18歳でしょ?」 いや、そうかもしれないけどね?それはまぁ、なんというか、ものの例えって言うか……うん、その通りですね。 結局隊長の年齢について考えるのを諦めて、ノンアルコールのジュースみたいなシャンパンを一口含んだ。 う……しゅわしゅわする……炭酸は苦手だ……。かと言って酒はもっと苦手だけれど。 「はい!焼けましたよー!次の方は誰でしたっけー?」 ちゃっちゃ、と慣れた手つきで調理するミヤフジ。 こんがりとよく焼けたオコノミヤキの上にソースを塗り、マヨネーズを振りかけている。 料理に不慣れな私に与えられた仕事はと言うと……カツオブシと青ノリと桜エビをまぶすだけだ。 「ふむ……これはいつかの親睦会で村人に振舞ったものか?」 バルクホルン大尉が物珍しそうにミヤフジの焼いたオコノミヤキをまじまじ見つめていた。 「大尉は食べなかったの?」 「う、うむ……撮影の方に手一杯だったからな……」 「そりゃー勿体無いよ。ミヤフジの焼いたコレってすごくウマイんだぞー?」 ミヤフジがたった今焼き上げた熱々のオコノミヤキを扶桑の小さいフライ返しみたいなもので4つに切り分けた。 灼熱の鉄板に触れたソースとマヨネーズがじゅう、という音を立てて焼けて、辺りに香ばしい香りが広がり、カツオブシが踊っている。 「確かに美味そうだな。どれ、ひとつ貰うか」 「どうぞどうぞ!はい、バルクホルンさん!」 「気をつけなよ大尉、頬っぺた落ちるからさ」 切り分けたオコノミヤキをミヤフジが差し出してくれた皿に盛り付けた。 食べてもらえるのが嬉しいのか、にっこりと太陽みたいな笑顔で大尉に渡すミヤフジ。はぁ……ちょうかわいい……。 「ふむ……ん……美味いな。扶桑の料理にしては濃い目の味付けだが、なかなかいける」 「そう言ってもらえると頑張った甲斐があるってもんです!」 力こぶを作ってガッツポーズ。やばい、抱き締めたい。 「……顔が緩んでいるぞ、エイラ」 「いいだろー。こんなきらきらした太陽みたいな笑顔の子が私の彼女なんだぜー。もう、なんつーかもう、ねぇ?」 「エ、エイラさぁん……」 何を言ってるのか自分でもさっぱり解らないけど察してくれよ大尉。つまりはそう、そうなのだ。 あー……恥ずかしがってる。かわいい、すごくかわいい。ダメだ、もう、ぜんぜんダメ。私が。 「お前それでも軍人か……。戦闘待機中だぞ?ダイヤのエースが聞いて呆れるな」 「いいじゃん、今夜はクリスマスなんだしさぁ。ミーナ隊長だって楽しめって言ってたじゃん」 大尉だってホントなら妹さんと一緒に過ごす予定だったんだしさ。そういえばハルトマンも一緒だったっけ? ……予定が変わったのはちょっと気の毒だけど。 「ふん……まぁいい。……ところでエイラは何かしないのか?」 「そ、そうそう!エイラさんはなにするの?まだ教えてもらってないけど」 「んー……まだ秘密、かなー?ちょっと時間的に早いし」 きょとんとした顔をするミヤフジと大尉。……あれ?二人で並ぶとなんかすごく似てる気がするぞ。 大尉の妹さんにはまだ面識は無いけどもしかしたら本当に似てるのかもしれない。 「……まさかとは思うが前みたいに予告編だとか言って誤魔化す気じゃないだろうな」 「まさか。いくら何でも同じような手が通用するとは思ってないよ」 「……ほんとかなぁ?」 ミヤフジが訝しげに私の顔を覗き込んできた。 大尉もなんか疑り深いし、私ってそんなに信用無いのか? 「なんだよーその顔はー?」 「らっへー、へいらひゃんらひー」 「なんだとぅ」 むにーっと、軽くミヤフジの頬っぺたを引っ張った。 いつの間にやら無意識のうちに引っ張るようになってる。ヘンな癖がついちゃったみたいだ。 ぷにぷにとしたミヤフジの頬の感触が気持ちよくて、髪と同じでずっと触っていたくなるんだ。 「こ、こら、やめないか。仲が良いかと思ったら今度は喧嘩か?」 「あー、いいのいいのトゥルーデ。こんなでもこいつらイチャついてるから」 イチャつくゆーな。いやまぁ確かにそうなんだけどさ。 ぬっ、と急に現れたハルトマンがフォローになってるんだかそうでないんだかよくわからない事を口にした。 本当に神出鬼没だなぁ、ハルトマンは。バルクホルン大尉を追い抜いて現在撃墜数世界一の秘密はこの辺にあるのかね。 「そ、そうなのか?」 「そうなんだよ」 「そうなんです。えへへぇ」 ……肯定したくせに、そこで照れるのかミヤフジ。 にへらと綻んだきみの顔を見ているとさっきまでの余裕はどこへやら、ばくばくと心拍数が上がってくる。 なんだか嬉しそうに恥ずかしそうに、頭をぽりぽりと掻くミヤフジの横顔をぼぅっと見つめた。……あ、やばい。スイッチ入ったかも。 「お熱いねぇ。もうからかっても面白く無さそうだし、つまんないなー」 「か、からかわないでくださいっ」 落ち着け、ナニ考えてるんだよ。耐性がついてきたとはいえ、さすがにこんなトコじゃ無理。絶対無理。 それに私が気にしなくてもミヤフジの方が……だ、だからダメだ。 ダメなのに。ダメだってのに、意識とは逆に私の頭は悶々とその事しか考えられなくなる。 「……どうしたエイラ。気分でも悪いのか」 「な、なんでもない」 ホントなんでもないんだ。ないんだってば。ないはずなのに、取り乱してしまう。 だからその時響いた物々しいサイレンの音に、少し感謝してしまった。 「ミーナ中佐!応答せよミーナ中佐!くそ!なんだこれは!繋がらないぞ!?」 整備兵達がばたばたと走り回る騒々しいハンガーで、サカモト少佐が珍しく取り乱していた。 周波数をミーナ隊長やシャーリーに合わせようとしても、インカムからはざざざ、という耳障りなノイズしか聞こえてこない。 「なにか、電波妨害のようなものかもしれません。二人の周波数は確認できますが、ノイズが酷くて……」 「サーニャ、視えるか?私の眼では夜目が効かん」 「やってみます」 サーニャが魔導針を発現させて索敵と二人の捜索をしている間にサカモト少佐を含めた9人のウィッチが舞い上がった。 「暗い……ね」 すぐ隣を飛んでいたミヤフジが誰にともなしに呟いた。 嫌な予感が的中してしまった。月は出ているものの、こう暗くちゃ私やサーニャ以外のみんなは視界が半減してしまいそうだ。 「……!二人が見つかりました……シリウスの方角、直線距離にして五千、高度は千五百程度です」 いつもより強めの語気でサーニャが報告した。 千五百……低空もいいところだ。つまり雲の下だということで、さらに月明かりが制限されてしまう。 ……今回のネウロイはやけに頭を使ってくるじゃないか。 「敵の姿は見えるか?」 「それが……すみません、やはり周辺にネウロイの姿は確認できません……」 「くそっ!姿さえ見えれば叩きのめしてやるというのに!」 サーニャの報告を聞いたバルクホルン大尉が悔しそうに叫ぶ。 本当に、どんなトリックを使って姿をくらましてるっていうんだ。 「……すみません……」 「い、いや!リトヴャク中尉を責めてるわけではないぞ!?私はネウロイに対してだな!?」 「はいはい、謝るなら後にしようトゥルーデ。もう着くよ」 遥か前方にミーナ隊長とシャーリーの姿を確認した。 互いに背中合わせになって、死角を無くして全方位の攻撃に備えている。 まさかとは思ったけど本当に「見えない」のか。これは不測の事態に備えて予知を発動させておいた方がいいかもしれない。 「シャーリーっ!!だいじょーぶ!?」 ルッキーニが先行して二人の元に飛び出す。 その後ろ姿に、赤い閃光が、重なって視えた。 「ル、ルッキーニのド貧乳!半年間成長なし!変化の無いカップ数!!」 シャーリーに飛びつこうとしてるんだからスピードは目一杯出してるだろうし、止まれと言ってもあのルッキーニが素直に止まるとは思えない。 考えあぐねて咄嗟に思いついた言葉がそれだった。……最悪すぎる……。 「うにゃああああああ!?あたしはこれから成長するって言ってるでしょーがぁ!!」 けど、効果は覿面だったようで、思いっきり反応してなんとかギリギリで止まってくれたようだ。 「エ、エイラさん!急に何言ってるの!?」 「……エイラ……最低……」 ……なんか別の方面からも多大な盛況を頂いたんですが。いや、いいんだ……。うぅ……。 一拍置いて、こちらを振り向いたルッキーニのすぐ後ろ、ホントに紙一重の空間を極太のビームが下から上に貫いた。 「うにゃ……?」 「ぎ、ぎりぎりセーフ……」 思わずふいぃ、とでっかい溜め息が漏れる。 危なくルッキーニの誕生日が逆の意味になるところだった……って縁起でもねぇ!? 「下かッ!?」 「し、下……って言われても海しかありませんよ!?」 その場の全員が一斉に真っ黒な海を見下ろした。 暗くて海面すら殆ど見えないけれど、ネウロイらしき影はどこにも見当たらない。 「サーニャさん!?貴女の魔法で見つけられませんの!?」 「そ、それが……なにも視えないんです……本当に姿が消えるのか、海の中以外なら視えるはずなのに……」 「海中以外……ってもしかして!?」 「また来た!」 真っ黒な海のど真ん中が赤く膨れ上がるのが視えた。警告を発して回避体勢を促す。 ……間違いない、ネウロイは海の中だ! 数秒後、ネウロイのビーム兵器が水飛沫を上げて海面から放たれた。今度は3本。 「……一応数は一機のようだけど……いつかみたいに分裂しないとも限らないわね」 「無事かミーナ!」 「ルッキーニぃ!怪我とかしてないか!?」 「シャーリーこそだいじょぶ!?」 ミーナ隊長、シャーリーと合流する。これでやっと501のウィッチが全員揃った。……けど、 「どうやらミーナの言ったとおり随分と捻くれた性格のネウロイのようだな……こう海中に引き篭もられては私もサーニャもお手上げだ」 「加えてこの暗さじゃあね……エイラさんの予知でなんとか被弾は避けられても、こちらからは打つ手なしだわ……」 佐官二人が苦い顔をする。空では無敵を誇る航空歩兵も、海中のネウロイ相手では手も足も出ないなんて。 「ていうかこれって海軍とか爆撃部隊の管轄じゃないの!?なんで戦闘機部隊の私達が……ってまた来た!今度は5本!!」 叫んだ数秒後、赤い5本の柱が空を薙ぎ払った。 貫かれた雲が大穴を開けて、雲間からわずかに月光が差し込む。 「……なんとか奴を海から引きずり出せればな……」 サカモト少佐が顎に手を当ててうむむ、と考え込む。 海中深くに腰を据えたネウロイには、サーニャのロケット弾頭もリーネの強化弾頭も大したダメージにならないどころか、届くのかすら怪しい。 はっきり言って弾の無駄だ。 「ふふふ……んっふっふっふ……お〜〜〜っほっほっほっほ!!」 耳障りな高笑いが聞こえてきた。 ……どこかの誰かを思い出すようで非常に腹立たしい。 「ツンツンメガネ、壊れるのは後にしてくんない?」 「ペリーヌさん!?ど、どこか怪我でもしたんですか!?治しますよ!」 「なんでそう貴女方はいちいち癪に障ることを言いますのッ!?」 きいきいと喚くペリーヌ。あー、もう。だから今はそれどころじゃないんだってば。 やる事無いんだったらその辺で魚でも浮かせて遊んで……って。 「っそう!満を!持して!この!わたくしが!あの憎きネウロイを海から引きずり出して差し上げますわっ!!」 「……ペリーヌ、有難いが無茶だけはするんじゃないぞ。駄目だと感じたらすぐに引き返して来い」 「はああぁぁぁ……さ、坂本少佐に心配していただけるだなんてッ!!わたくし感無量ですわッ!!」 ……いいから早く行ってくれ。モタモタしてると次の攻撃が来てしまう。 「それじゃ、あたしはちょっと明かりの確保でもして来ようかな〜?」 「お、おいハルトマンどこへ行く!?」 ペリーヌの次はハルトマンがなにやら意味深な事を言い出した。明かり?明かりってなんだ? ……とりあえず、まずはペリーヌの作戦とやらを実行して奴を引きずり出さなくては。 「反撃開始ね……各員戦闘配置について!」 ミーナ隊長の鶴の一声に、全員が了解、と力強く応答した。 「ばか、ばかばか、ミヤフジのばーーか!」 「うう……そこまで言わなくても……」 いまだ続いているクリスマスパーティー兼ルッキーニの誕生パーティー兼祝勝会をこっそり抜け出して、私の部屋のベッドの上。 昼とはまったく逆の状況。加えて、私の「ばか」という言葉にはいつもより怒気が多めに含まれていた。 何が3人の合体技だ。あんなの完全に特攻じゃないか。しかも未完成のくせにぶっつけ本番?ありえない。危険すぎる。ばかだよばか! シャーリーやルッキーニもそうだ。私に何の相談も無いなんて。どこの世界に人の彼女をぶん投げる奴がいるんだよ。 「エ、エイラさん、いたいよ」 「自業自得だよ。離したらまた危ないことするかもしれないから朝まで絶対離さない」 むぎゅう、といつもより強めに後ろから抱き締めて、ミヤフジの髪に鼻を埋めた。少しだけ汗の匂いがする。 「お風呂も?」 「うん」 「寝るときも?」 「うん」 「お、おトイレのときも?」 「……その時は離す」 「ち、ちょっと安心した……」 そう言って、無い胸を撫で下ろすミヤフジ。……ふん、心配かけさせるミヤフジが悪いんだ。 ……あんなでっかいネウロイを貫通して馬鹿でかい大穴を開けた威力は感心したけど、見てるこっちは気が気でなかったんだ。 そういう事はちゃんと事前に言ってくれよ。ちゃんと私を安心させてくれよ。 爆発が起こったとき、巻き込まれてないかとか、シールドが耐え切れずに砕けてないかとか、色んな怖いイメージが頭の中をぐるぐる巡ったんだから。 結果的にミヤフジもルッキーニも傷一つ無かったけど、ホントにミヤフジが戻ってこなかったらどうしよう、って怖かったんだから。 「……ばか。心配したんだからな……」 「……ごめんなさい」 「……ちゃんと反省したか?」 「うん……」 ミヤフジの声のトーンが若干下がって俯く。ホントに反省しているらしい。 ……じゃ、そろそろ許してやろうかな……。 「ミヤフジ、手、繋いで」 「え?」 「このままじゃ片手も使えないから」 そう言って左手でミヤフジの右手を掴んでベッドから立ちあがった。 手を繋いでミヤフジを引っ張るなんて、初めて一緒に夜間哨戒をした夜のことを思い出す。 あの時は大事なサーニャが離れていくような気がして、ちょっとやけくそ気味にミヤフジを監視するような気持ちで繋いだんだっけか。 思えば、意識して他人と手を繋いだのはあれが初めてだったような気がする。 「わ、っとと。エ、エイラさん?」 「言ったろ。朝まで絶対離さない」 ミヤフジを連れたまま部屋に備え付けてあるクローゼットを開けて、素っ気無く地味なリボンが巻かれた包みを取り出した。 その包みをミヤフジに押し付けて左手に抱えさせた後、もう一度ベッドに乗っかって、また後ろから抱き締めなおす。 「これ……?」 「……ぷ、ぷれぜんと」 この一ヶ月くらい、ずっと私を悩ませ続けたモノだ。 その悩みもやっと終わると思うと、方の荷が降りたような寂しいような、なんだか不思議な気分。 「ええと、あ、開けていい?」 「あ、当たり前だろー?それはもう、ミヤフジのもんなんだから!」 「……う、うん。そうだね」 両腕を脇の下から通して、ミヤフジの両手を自由に動くようにする。 ……う。太ってるわけでもないのに、ミヤフジのおなかはすごく柔らかい。 そんな些細な発見にどぎまぎしながら、がさがさと包みを開く様子を見つめた。 ミヤフジが、雪みたいに真っ白なそれを広げて、まじまじと見つめている。 「……コート?」 「ミ、ミヤフジって、ホラ、寒がりだから……その、できるだけあったかそうなの、選んだからさ」 「…………」 「き、気に入らなかったら突っ返してもいいから!ホント、趣味じゃないんだったら……」 「……やだ。ぜったい返さないもん」 ミヤフジがコートをぎゅう、と抱き締めた。 「ありがとう。ずっと大切にするね」 「あ、うー……よ、喜んでもらえたんなら、いいや」 「うん、すごく嬉しい。だって、エイラさんから貰ったんだもん。嬉しくないわけないよ」 う……ホントにハルトマンの言うとおりだった。何モンなんだよあの黒い悪魔。 ちゃんと手渡せた達成感と、喜んでくれた事への充実感で胸がいっぱいになって、心拍数がばかみたいに跳ね上がる。 ……これだけ密着してるんだからどきどきしてるのなんてバレバレだろうけど、朝まで離さないって言った手前、離れる事もできないで悶々とした。 「あの、着てみてもいい?」 「い、いいけど……このまんまじゃ着にくいんじゃない?……言っとくけど絶対離さないからな」 「うん、だから、前からぎゅってしてくれたら着やすいから……あと、絶対離さないで、捕まえててね」 恥ずかしい台詞を言ったつもりが、恥ずかしい台詞で返されて、逆にこっちが赤面する羽目になった。 あぁ、わかったわかったわかりましたとも。コートを羽織るお手伝いをさせていただきますとも。 腕を回したまま、ミヤフジの正面に回る。どうにかこうにか、ミヤフジを正面に抱いて、顔を見ないように、頭の上に顎を乗っけた。 顔を見て、もし、笑顔なんて浮かべられたらもう私はきっと我慢できなくなる。だから、そこだけ気をつけた。 ミヤフジが白いコートに腕を通した。もう片腕も通して、フードの乱れをぽふぽふ叩いて正す。 「ん……着れたよ」 「う、うん」 返事をして、両手を繋いで少し離れて、コートを着終わったミヤフジを見つめた。 「どう、かな?」 「……やっぱミヤフジには白が似合うよ」 衣替えして制服が紺になったり、腿まである丈の長い靴下を履いたりでなんだか全体的に黒っぽくなっていて、ちょっと気に食わなかっただけだけど。 でも、初めて会った時から白い制服を着ていたし、料理を作る時なんかも真っ白な割烹着姿だし、私の中ではミヤフジ=白って図式ができていたのかもしれない。 ……何より、私の持ってるコートだって白だから……その、お揃いって言うか……うぐぐ。 「さ、寒くないか?」 「ううん、平気。すっごくあったかいよ!」 「そ、そっか。それならよかった」 「ありがとう!エイラさん!」 「……うあぁ」 どうしよう。 喜んでくれたのが滅茶苦茶嬉しい。 浮かべてくれた笑顔が無茶苦茶かわいい。 もう、どうすりゃいいんだよ。 眩しくて、まっすぐで、暖かくて、まるで太陽みたいな笑顔。 きみの笑顔をずっと見ていたいのに、胸が一杯になってしまって、つい顔を伏せてしまった。 「……あ、でもちょっと残念かも」 「な、なにが?」 思い出したように喋るミヤフジ。何か不満でもあるんだろうか。 「こ、こんなにあったかいと、寒いって言い訳してエイラさんにぎゅってしてもらえなくなっちゃう」 「……ばっ!」 そんな事を言われて何か言い返そうとしたのに、咄嗟に言葉が出てこなくて、押し黙った。 だから、態度で示す事にする。ミヤフジの頭を引き寄せて、私の胸に埋めさせた。 「ひゃ……」 少し急で強引だったから驚かせてしまったようだけど、もうミヤフジも慣れたもんで、すぐに落ち着いてくれる。 「す、好きな子を抱き締めるのに、理由なんていらないだろ」 「……えへへぇ」 なんだよもう。そんなだらしない声なんか出してさ。 ついさっきまで怒ってたのに、幸せすぎてダメになる。私ってホントに単純だ。 「なぁ芳佳」 珍しく、名前で呼んだ。 呼ばれただけだってのに、きみは少し驚いたような顔をして、にっこり笑うんだ。 「……たまに名前で呼ぶの、反則だよ」 「そうかなー」 「そうだよ。だってすごくどきどきしちゃう」 「うん、知ってる。芳佳の胸、すごくどきどき言ってる」 「えへへ」 きみが幸せそうに笑うから、もっと幸せにしてあげたくなる。 おでこ同士をこつんとくっつけて、また名前で呼んだ。 「なぁ芳佳」 「なぁに?」 話したいことは山ほどあったけど、どれから話せばいいのかわからない。 もう、ただ名前を呼びたかっただけなのかもしれない。 だから、誤魔化すように口づけて、とりあえず2単語に思いを込めた。 メリー・クリスマス ※言い訳※ ・ごめん、くそ長い。戦闘パートとパーティー描写を大分削ってこれなんじゃ…まとめ力が足りない。全員喋らせるのに手一杯でいろいろぐだぐだだ! ・戦闘描写をやってみたかったんですが、ただ避けるだけになってしまったという。いつか書き直したいです。いや、します。たぶん。 ・冬のお話は温めあう的な意味でキャウフさせやすいので好きかもしれません。 ・エイラさんの出し物とかルッキへのプレゼントとかは番外編で書きます…いろいろネタが浮かんでいるもので絡めていきたい。