よしこ×エイラSS1.4のあと? 「こういう見解」 芳佳視点 「まー、私の場合はちょっと先の未来が視えるからな」 そう言いながら現れた彼女の姿をみとめた瞬間、無意識に顔がほころぶのが解った。 あの日以来わたしはエイラさんのことを目で追うようになって、「いつも通り」に戻ったわたしは前以上にエイラさんに接するようになった。 だからエイラさんに出会えるとやっぱり嬉しくてどきどきして笑顔になる。たぶんきっと、これはわたしにとって自然な現象なんだろう。 教壇に立つミーナ中佐の脇をすり抜けてすたすたと、エイラさんがわたし達の方へ歩いてきた。 なんだろう?一緒にミーナ中佐の講義を受けるのかな?でも今日の講義はスオムスについてだからエイラさんには必要ないはずだけど。 「あ、エイラさーー」 「ミヤフジ、ちょっとごめんな」 そう断って、エイラさんはわたしの胸元にそっと手を……へ? え?ええっ?こ、これって……む、胸を触られたってこと……? 混乱するわたしをよそに、エイラさんは手に力を込めた。 ぐいっと押されてバランスを崩して、すぐ隣に座っていたリーネちゃんの方に椅子ごと倒れかかる形になる。 エイラさんはというと……ち、近い!近いどころか体が……密着して……!こんなの、し、心臓の音が聞かれ…… どがっしゃああああああん 「え……?」 リーネちゃんがびっくりして小さく声を上げるのが聞こえた。 なにが起きたのかはわからないけど、とにかくエイラさんの向こう側から物騒な破壊音が聞こえてきた、ようだ。 思いがけない出来事が起きて盛大に混乱しているわたしをさらに混乱させる。な、なに?なにが起きたの? 「こんな感じで未来がわかるから、私は被弾したことがないんだ」 ちょっと得意げに語りながら、エイラさんがわたしの体から離れた。視界が開けて、ようやく周囲の状況がわかるようになる。 もうもうと埃を巻き上げて、わたしの背丈以上もある看板?のようなものがわたしがついさっきまでいた位置に転がっていた。 ……あのまま座っていたら下敷きになっていたんだ……。 看板は鉄製らしく、ところどころが鋭く尖っていて、下敷きどころか串刺しになっていたのかもしれない。 ……想像してぞっと身震いした。 「とはいっても避けられなかったらお手上げだから、別に万能ってわけでもないんだけどなー」 「あ、ありがとうございます……」 助けて……くれたんだ。こんなのちょっと、格好良すぎやしませんか、エイラさん。 やばいなぁ……虜、ってやつなのかなぁ。 「芳佳ちゃん、大丈夫?」 「ミヤフジー、ケガなかったかー?」 気づけばずっとリーネちゃんに寄りかかっていたらしい。 リーネちゃんがわたしをしっかり支えてくれていて、心配そうに声をかけてきてくれた。 ……ふかふかで気持ちいいなぁ……。 「うん、ごめんね」 お礼を言って立ち上がり、体はなんともないことをアピールする。 助けてくれたエイラさんと支えてくれたリーネちゃんのおかげでまさに傷一つ無い。 颯爽と現れて颯爽とピンチを助けてくれて、この前サーニャちゃんが言っていたけどエイラさんはまるでヒーローだ。 ふふん、と顎に手を当てて得意そうな顔をするエイラさんに思わず見惚れる。 「……ねぇよしかちゃん、もしかして……」 「え?なぁにリーネちゃん」 リーネちゃんが訝しげな表情をしてわたしをじっと見つめていた。 「……ううん、なんでもないよ、よしかちゃん」 「??」 ……なんだろう?何を言いかけたんだろう。 「腐っていたのかしら……流石ねエイラさん、助かったわ……」 ミーナ中佐が上を見上げながら冷静に状況を分析している。 つられてわたしも天井を見上げてみると、看板を吊ってあった部分が完全にもぎ取れていた。 ミーナ中佐の言うように、腐って看板の重みに耐え切れなくなったのかな?この基地自体結構古くからあるらしいし……。 (……あれ?) 吊り金具が刺さっていたと思われる箇所のまわりに、妙な跡がある。 なんだろう……手形……みたいな……。ま、まさか幽霊!?古い地下へ続く階段とかもあるし、もしかしたら……!? そんな怖い想像に、なんだか背筋にぞくりと冷たいものを感じて、不安のあまり手近にあったものをきゅっと掴んだ。 「ん?どうしたミヤフジ」 「へっ!?あ、あああああ、あの……な、なんでもない……」 どうやら無意識にエイラさんの服の袖を掴んでしまっていたらしい。 慌てて手を離して飛び退いたけど、エイラさんは不思議そうに顔を傾げている。 「それにしても、こんな能力を持っていて戦果も上げているのに、どうしてエイラさんは少尉なのかしら?」 視線を元の高さに戻した隊長が不思議そうにエイラさんに問いかけた。 確かにエイラさんはベテラン中のベテランだ。 階級とかの話はまだよくわからないけど、もっと上の階級でも問題ないと思う。 「だって昇進したければ士官教育受けろとか言い出してさ。正直めんどかったんだ。私、面倒くさがりだかんなー」 (でもサーニャちゃんの服は畳むんだ…) 思わず、少しむっとしてしまった。そんな自分を冷静に見返して、罪悪感が溢れ出た。 ……嫌だなぁ……サーニャちゃんはすごくいい子でわたしも大好きなのに、なんでこんな気持ちになっちゃうんだろう。 きっとこの気持ちは確実に嫉妬なんだろう。今現在エイラさんの一番近くにいるのはたぶん、サーニャちゃんだから。 もしかしたらエイラさんはサーニャちゃんのことがそういう意味で好きなのかもしれない。 もしかしたらサーニャちゃんもそうなのかもしれない。 けどその二人の関係が明確ではないから、わたしはずっとモヤモヤしている。 好きでいていいのか、諦めるべきなのか。……そもそも女の子同士なんだからこの感情自体普通じゃないんだ。だから、モヤモヤと……。 ……ああ、もうやめだ!もううじうじしないって決めたばかりじゃないか宮藤芳佳!俯くな!前を向け! そう思って顔を上げて、エイラさんの横顔を見上げた。 「……あっ!?」 「ん?」 エイラさんの頬から血が出ている。破片か何かで切ってしまったんだろうか。 傷自体は小さいものだけど、つう、と赤い筋が流れ出ている。 「エイラさん、血が出てる……左頬」 「へ?マジで?……あー、自分の目で見えないからわかんなかったなぁ」 「わ、わたしのせいだ……わたしを庇ったから……」 「……なーにあの時のサーニャみたいなこと言ってんだ?似合わねーぞー」 「あたっ」 そう言われてでこぴんをされる。うぅ、わたしはただ……心配して……。 ちょっと落ち込むわたしを気にしていないのか、エイラさんはごそごそと、ウエストポーチの中をまさぐっている。 しばらく手を動かしたあと、目当てのものを見つけたらしく突っ込んだ腕を取り出した。 「私が勝手にやったことだし、ミヤフジが悪いだなんて思ってないけどさ、悪いと思ってるならこれ貼ってよ」 差し出されたのは絆創膏。見つめられたのはわたし。 「え……あの、治癒するよ!」 わたしの固有魔法は治癒だ。こんな時こそ使わなければ、宝の持ち腐れというやつだ。 でも当のエイラさんは首を振る。 「あのなぁ。こんな小さいキズなんて勝手に治るっての。キズ全部治してたらキリないじゃん?」 「で、でも……」 「そうよ宮藤さん。あまり魔法に頼りすぎるのは感心しないわ」 「うぅ……」 ミーナ中佐からも少し咎められた。 同意を求めるようにリーネちゃんの方を振り返ったけど、あはは、と苦笑いを浮かべて様子を見ている。 どうやら使用許可は下りないらしい。渋々ながら絆創膏を受け取った。 「自分じゃ貼れないからたのむー」 そう言って頬を差し出すエイラさん。 そんなわけないのに、頬にキスをせがまれた気分になって、どきんと心臓が跳ね上がった。 ……なに考えてるんだろう、わたし。絆創膏を貼るだけなのに、勘違いも甚だしい。 どきどきが収まらないままごくりとつばを飲み込んで、絆創膏をあてがった。 「ん……さんきゅ、んじゃミヤフジもちょっとじっとしてろよ」 「へ?」 またごそごそと、ウエストポーチに手を入れて、取り出したのは同じ絆創膏。 傷はひとつのはずだけど……。 「あ、血ィ出てきた。はい、じっとしてー」 「え……」 顎を掴まれて、ぐいっと横を向けられる。収まりかけた心臓がまたも跳ね上がった。 ちょっとだけ右頬を撫でたあと、ぺたりと絆創膏を貼りつけられた。 「完全に防いだと思ったけど、やっぱり破片飛んじゃってたみたいだなー」 エイラさんが何か言っているけど、ほとんど聞こえてなかった。ただ貼られた絆創膏を撫でて、ぼーっと虚空を見つめる。 顔に触れられた感触と、エイラさんに貼ってもらったという事実に、なんだかふわふわした気分になってしまう。 そんなわたしの様子を知ってか知らずか、エイラさんがぽんとわたしの頭に手を置く。 はっとして見上げると、エイラさんは今まで見たことが無い柔らかな表情をしていた。 少しの謝罪とあとは全部優しさで構成されたような、とんでもなく綺麗な微笑で口を開いた。 「ごめんな」 かああ、と今までで一番の速度で顔が熱くなった。 だめ、そんな顔されたら、わたし。 「〜〜〜〜っ!!」 ばくばくと、滑走路を全力疾走したみたいな心臓。かっかかっかと、お風呂上りみたいに熱い顔。 真っ白になって何も考えられなくなりそうな思考の片隅で、なんとか今の顔を見られたら恥ずかしい、とだけ考えて、俯く。 俯いたあと頬に手を当てた。エイラさんに貼ってもらった絆創膏が指先に当たって、また更に顔が赤くなる。 こんなの、露骨過ぎるよ、わたし。 「い、痛かったか?」 「ちち、ちがうの。あの、なんていうか」 受け答えるだけで精一杯だ。もうほとんど何も考えられない。 ただエイラさんの反応からして悟られてはいないなとだけ受け取って、すこし安心した。 「よしかちゃん……やっぱり」 「あらあら、まぁまぁ」 「ん?何の話?」 三人が何か話してるような気がしたけど、完全に右から左に抜けていく。 今のわたしは胸のどきどきのことしか考えられていない。お、おさまれー、わたしの胸ぇー……。 「リーネはミヤフジの陰になってたからどこもケガしてないっぽいな」 「あ、はい……でもエイラさん、よくよしかちゃんの傷に気づきましたね?」 「んー、予知で血が出てるの視えたから」 「……わたしには魔法は使わなくていいって言ったくせに……」 なんとかものを考えられるようになって、文句を垂れた。 まだたぶん顔は赤いから、そんなに顔は上げられないけど……。 「ミヤフジのクセに生意気だぞー?私の魔法はほぼ常時発動だから意識して止めなきゃ抑えられないんだよ」 そう言って、左頬だけをつねられた。……怪我してない方の頬。 どこまでも優しいエイラさんを恨めしく見上げて、また顔が熱くなる。……ちょっと悔しいくらいにかっこいい。 「んじゃ、私はそろそろ行くよ。看板、あとで直しとかないとなー」 「助かったわエイラさん。ありがとう」 「なんてことないって」 そう言いながら登場時から出しっぱなしだった耳と尻尾を引っ込めて、ブリーフィングルームの出口まで歩いてゆく。 去っていく後ろ姿を追いかけるように、声を張り上げた。 「あ、あのっ!ありがとう、エイラさん」 「んー」 ひらひらと手を振るだけで、エイラさんは振り返らなかった。 惚けた顔でしばらく後ろ姿を見つめたあと、ふと窓の外に視線を移す。 すかっと晴れた青空の真ん中から、黒い服を纏った小さな人影が基地に近づいてきていた。 「……サーニャちゃん、帰ってきたんだ」 小さく呟く。 そうか、こんな朝早くからエイラさんが行動してるのは何故かと思ったけど、サーニャちゃんの帰りを待っていたのか。 ミーナ中佐に何か連絡が入ってないか聞きに来たのかもしれない。 さすが未来予知。わたしが窓の外に気づいたのが視えていたのかな。 「エイラさん、かっこよかったねー?」 「へっ!?」 ぼーっと考え事をしていたら妙に笑顔のリーネちゃんが話しかけてきた。 「ちょっと鈍い気もするけどあれは無意識なのかしら」 「な、なんですか!?ミーナ中佐まで!」 「「ねぇー?」」 声を揃えてリーネちゃんとミーナ中佐が見つめ合いながら楽しそうに笑った。 ううぅ……二人ともなんなの?なんか、仲良しになってるし……。 もしかして気づかれてるのかなぁ……そりゃあそうか。あんなに露骨な反応をしていたら気づかれない方がおかしい。 「うぅ……」 呻き声を上げながら、無意識に右頬を撫でている手に気づく。 慌てて手を戻したけど、貼ってもらえたことが嬉しくて、口元がむずむずと緩んでいくのが自分でもわかった。 「……えへへぇ……」 ああもう、我慢が足りないなぁ、わたし。 「はいはい、授業を再開しますよ」 ミーナ中佐が手をぱんぱんと叩いて気持ちの切り替えを促す。 そうだった。今は国際情報の授業中だった。慌てて真面目な顔を作って、前を向いた。 ……でも、もう一度だけ。そう思って、また右頬を撫でた。 やっぱりわたしは、エイラさんが好き。 ……今はそれだけでいいや。 ※言い訳※ ・ファンブック買えなかった。3:33 2009/01/10 ・国際情報8で芳佳がエイラさんに助けられてどきどきして絆創膏貼ってどきどきして貼られてどきどきする話。 ・ちょっとだけ修正。5:59 2009/01/10