2月。 ブリタニアはスオムスに比べていくぶん温暖で過ごしやすいとは言え、 この季節だと寒いものは寒い。 にもかかわらず、 ここブリタニア前線基地は…うわついていた。 発端は2月1日。 朝のブリーフィングが終わろうとしていた時に、 バルクホルン大尉がいつも通りの大真面目な顔で 「みんな、来る2月8日はクリスの誕生日なんだ。  是非何かプレゼントを用意してやって欲しい。  クリスにふさわしい品かどうか確かめたいので、一度私を通してくれ」 なんて言い出したのがきっかけだ。 何言ってんだこの人…一週間も前から…。 その場にいた人らは全員そう思ったんじゃないか。 一瞬の間の後にブリーフィングルームが爆笑に包まれたからわかる。 「な、何がおかしいんだ! おい!」 ってムキになる大尉を見てなおさらみんな盛り上がった。 一応大尉の妹さんには前に会った事がある。 あぁ、大尉が宮藤をひいきするのもわかるなぁと思った。 明るく笑った時の雰囲気が、周りを和ませてくれる。 そんなムードメーカーなところが宮藤によく似てると思った。 大尉をからかったりして、宮藤より大人びてる感じはしたけど。 どっちが年上なんだか。 長期の昏睡から醒めて、怪我はすっかり治ってるんだけど 筋肉が多少萎縮してるからリハビリと、念のための検査を繰り返してるそうだ。 「お世話になるばっかりで申し訳ないですから、最近は病院のお手伝いもさせてもらってるの」とはにかむ妹さんに 大尉はもう顔から色々出さんばかりに感動してたな。 いい子だよ、うん。 さてさて、そんなわけで妹さんは病院に身を寄せてるって事で あんまり大きいものを送るのも迷惑だろう。 音が出るようなものも動き回るものも。 服とかも検査の邪魔になるようじゃ無用の長物だし…。 こりゃ結構選択肢が狭いぞ。 さんざん思い悩んだ末に、本を送った。 小さい頃好きだった絵本が翻訳されてるのを知ったから。 ちょっと子供っぽすぎるかな、プレゼントとしても無難すぎるかも…とは思ったけど、 大尉は大喜びで「私が読んでやろう!」とはりきっていた。 うーん。 私はそうやってちゃんと実用性を考えて選んだのに、 リーネはどでかいケーキ焼いたり隊長は歌をプレゼントなんて言い出したもんだから 結局みんなで病院に行く事になって、 501統合戦闘航空団による病院慰問会みたいになった。 まぁ妹さんを始め病院の患者さんや医者・看護の人たちも喜んでくれてたみたいで良かったんだけどさ。 どうでもいいけどじいさんばあさんが私らを見て拝んでくるのは勘弁して欲しい。 お尻がとてもむずがゆい気分になる。 まぁそんなこんなで、一週間ずいぶん頭を使わされた上に 大尉と妹さんが心から笑いあってる姿を見て、 思わずちょっと感動しちゃった次の日。 その恥ずかしさもあって、シャーリー相手に 「いやー大尉は見てて飽きないなー」などとダベる事にした。 「あっはっは、上官は敬えよー。あたしもいちおー大尉なんだからさー」 バルクホルン大尉をいじるにはシャーリーと一緒に限る。 ノリはいいしブレーキかけるところはかけるし。 そのシャーリーの誕生日はいつなんだろう。 ふと気になった。 「んー? な・い・しょ、だ。あっはっは!」 「なんだそれー!」 「ミステリアスなとこがあった方が女は魅力的ってもんさ」 「年齢はともかく誕生日の日付隠しても意味ないだろ…」 「んー、しょうがないねぇ。  …たぶん襲撃が明日か明後日にあるだろ? それの後に教えてあげるよ」 なんだかよくわからないはぐらかし方をされる。 「…何かないとも限らないしね、その時」 聞こえないほどの小さい声でシャーリーが呟いた。 そんな言い方されたら気になるじゃないか。 果たして二日後、ネウロイの襲撃があった。 律儀なもんだな、毎週毎週。 まるで一年に一回必ずやってくる誕生日みたいに。 …ふとこいつらの誕生日についても考えそうになってしまった。 落ち着け私。 こいつらは私らに明確に敵対する意志を見せているじゃないか。 そうである以上、迎撃しなきゃならない。 私には絶対に守らないといけないものがあるから。 クリスパワーを最大までチャージしたバルクホルン大尉が獅子奮迅の活躍を見せて、 見事ネウロイはコアを破壊されて散っていった。 私がやった事と言えば 仲間が危険にさらされないか予知で気をつけてたぐらいだ。 せっかく気合入れなおしたってのに、援護する暇もありゃしない。 まぁ仲間が全員無事っていうのが何よりの戦果だ。 シャーリーの心配も取り越し苦労って事になった。 大らかに見えて意外と心配性だよな。 ともかくこれで心置きなく誕生日も聞けるってもんだね。 「あ、それ? 明後日」 「…は?」 「だから、あさって。2月の13日があたしの誕生日」 「ちょ、な、急だろ! もう実質明日しか準備できないじゃないかー!」 基地に帰投した事にはじわじわと陽も傾き始めてる時刻だった。 これから車でブリタニアの町に行っても着く頃には暗くなってる。 「だってホラ、なんか自分から言うのも催促してるみたいでヤじゃないか。だから無理に何か用意しなくてもいいよ。  それに年長者にとって誕生日ってのは複雑なのさ」 「…私といっこしか変わんないだろ」 「あ、そうだった。あっはっは!」 ええいリベリオンはフリーダムだな。 「あたしはしっかり準備してあるかんねー! えっへへー!」 今日は横でシャーリーにじゃれついてたルッキーニが、ない胸を張る。 「おー、ありがとうなルッキーニ。楽しみだよー」 「てゆーか逆になんで準備してないかな、非常識だよひじょーしきー!」 褒められたルッキーニが調子に乗る。 「知らなかったんだから仕方ないだろー」 「知らない事がひじょーしきなんだよー! ね、シャーリー?」 うーんダメだ、完全に向こうのペースだ。 「よし、じゃあ明日中にビックリするようなもの用意してやるよ! 見てろ!」 「なにをー! 負けないもんねー!」 「おお、こりゃ楽しみになってきたなー。期待してるよ二人とも」 売り言葉に買い言葉とはこういう事か。 んでまぁ翌日はロンドンをフラフラしたんだけども、 これがどうすりゃいいのか検討もつかない。 いっそバイクでもドーンと送ろうかと思ったけど、逆に困られそうだし。 幸運のお守りのウサギの足とか見かけたけど…使い魔泣いちゃいそうだし。 もう扶桑人形でも贈ってやろうか、とか考えて模型店を覗いてみると、面白いものを見つけた。 「おーなんだこれー! 走る走る、あっははは!」 無線操縦器をいじりながら、楽しげに滑走路を走り回るシャーリー。 うん、驚かせる事には成功したかな。 「新製品だからって結構高かったんだぜ、そのラジオコントロールカーってやつ」 「しゃ、シャーリーあたしも! あたしもやるー!」 「ああいいぞ、海に落っことさないよう気をつけてな」 うひゃー!だのわおー!だの、声を上げながら、ルッキーニが足元の小さい車と一緒にどんどん遠ざかる。 「いやいや、面白いもんもらったよ。ありがと」 「んー、まぁ喜んでもらえたなら何よりだよ」 正直なところホッとした。 贈り物なんて慣れてないからなー。 「…んっふふ」 いつも豪快に笑い声を上げるシャーリーが、珍しく含み笑う。 「なんだ気味悪いなぁ」 「いや、ね。やっぱ祝ってくれるって心意気が一番嬉しいんだよ。  ここに来たばっかの頃は、正直そっちが何考えてるかわかんないところもあったしさ」 …自分では普通のつもりなんだけどなー。 「贈り物はもちろん嬉しいんだけどさ。  何て言うかな…。そだな、どうしてあれを選んでくれたの?」 「へ? んー…シャーリーにはストライカーユニットだけじゃなくて車も似合うかな、とか。  あ、いや、飛んでるのが変って意味じゃなくてな」 「ん、それそれ。  何が喜んでもらえるかって考えてくれてた事がね。ありがとう」 …こう正面から言われると、なんか照れるな。 「慌てて考えさせたのは誰だよー」 「かえって無理させちゃったか、ごめんごめん」 「いや、でも、うん。誕生日おめでとう、シャーリー」 にかっと笑うシャーリー。 「ルッキーニからは何もらったんだ?」 「この基地内の、ルッキーニの秘密基地の地図」 「…オリジナリティたけー」 「いつでも遊びに来て、だってさ」 「それシャーリーにじゃなくて、ルッキーニに対するプレゼントなんじゃないか?」 「あっはっは、かわいいじゃないか」 いつの間にか小さな点になってしまったルッキーニに視線を向ける。 私からの贈り物がよっぽど気に入ったみたいだ。 …あれもシャーリーに贈ったんだけどな。 まぁシャーリーも嬉しそうだからいいけど。 まぁそんなこんなで、2月が始まってからというもの 誕生日づくしなわけだ。我が隊は。 次は…僭越ながら2月21日に私・エイラの誕生日を迎える事になる。 「サーニャも今頃プレゼントに頭悩ませてるよ、んっふふ」 「…くれるかなぁ、サーニャは私を祝ってくれるかなぁシャーリー?」 「なんだ、今更そんな事言ってんの?」 「だってさぁ…」 正直期待してる。こんなに誕生日が待ち遠しい事なんて今までなかったぐらい。 そんな現金な自分がイヤで、期待しすぎないよう自分に必死に言い聞かせてる。 祝われなくてもいいじゃないか、と。 そう思ってると、ホントにそうなったらどうしようと不安が顔をのぞかせる。 落ち着かない。 「…あのさ、なんで私がエイラの誕生日知ってるか疑問に思わない?」 「あぁ、そういやなんで? 私言ったっけ?」 「サーニャが相談しに来たのさ、エイラは何もらったら嬉しいかなって」 「…あ、ああ、そうなのかー…」 うわやっべ。 安心したらニヤニヤが浮き出てきた。緩むな私の頬。 「ホントわかりやすいなー、この果報者」 「ちょ、ちょっと、今からかうの禁止! ホント抵抗できないから!」 あー、シャーリーの言った通りだな。 私が喜ぶようにって考えてくれてるのって、何かこう、ホント嬉しいな。 「なんかもー私からは何もあげなくていいかー?」 「い、いやいや、期待させていただいておりますよ、うん」 「へいへい、もう超適当に考えてやる」 実際2月の頭から、私はサーニャの動向が気になって仕方なかった。 私の誕生日話したの結構前だったから覚えててくれるかなとか、 カレンダーに何か書いとけばよかったかなぁとか、 今から書いちゃ催促してるみたいだしなぁとか。 シャーリーの言う通り確かに自分からは言い出しにくい。 そんなわけで自分から誕生日について話すのがタブーみたいに思えて、 大尉の妹さんの事があったのに、 サーニャと誕生日の話題で話す事は最近なかった。 …考えてみると、サーニャからもその話題をふられる事はなかったなぁ。 シャーリーの誕生日知ってたなら教えてもらえてたかも知れないのに。 となるとやっぱりサーニャも私と同じく、 私の誕生日を意識してる…って事になるのかな。 私を祝おうと準備してくれてたりすんのかな。 …なんだか大変に心が盛り上がってまいりましたですよ? 「で、あの、プレゼント相談しに来たサーニャに…どう答えたん?」 「あっはっはっは、言うわけないだろ」 ニヤニヤしながら、にべもない返答。 「なんだよー! いじわるリベリアン!」 「他の人より自分の誕生日が気になって仕方ない薄情者には言わないよー」 「あ、あー…うん…それは確かに…薄情なのかもなぁ、私。ごめんな」 「おいおい冗談だって! 全くこの隊にはいじりやすすぎる子が多いなー、もう」 いや実際薄情なのかも知れない。 確かにシャーリーを祝いたい気持ちはあるんだけど、 それとは全く別にサーニャの事を考えてしまう自分がいる。 「ふふ、そんな真面目な顔して考え込まなくてもいいよ。  私はエイラから祝われて嬉しかった、それでいいのさ。  次は自分が幸せになるよう考えな、それがサーニャの幸せにもなるさ」 ぽんぽんと頭を叩かれた。 …ホントに私といっこしか違わないのか?と不安になる。 あ、今日から一週間ぐらいは二つ違いか。 「ま、申し訳ないと思ってくれたんなら今日の夜は私のバーベキューに付き合ってくれよ」 「…この寒空の下で?」 「めでたい日はぱーっとやるに限るのさ! なぁに寒さなんて忘れるって!」 かくして宣言どおりその日の夕食はテラスでのバーベキューとなった。 「前からこの日の夕食当番はキープしといたんだよねー」 楽しげに肉を焼いていくシャーリー。 間近でよだれをたらさんばかりの勢いでまじまじと見つめるルッキーニとハルトマン。…火傷するぞ。 「全く、リベリアンの料理は大味だな。クリスには食べさせられん」 「まぁまぁいーじゃんトゥルーデ、マジでいい匂いだよ。本能に訴えかける〜」 いちいちつっかかる大尉も律儀だなー。 文句言いながらも腹が減ってるのか、炭にくべられた肉から目を離してないくせに。 「そうそう、たまには私の嗜好につきあっておくれよカールスラントさん。私の誕生日ぐらいね」 「な、お前…そうだったのか!? 聞かされてないぞ!」 「へっへー、先日のクリスちゃんの件、お返しできなくて悔しいかい? 作戦成功! イェイ!」 嬉しそうにルッキーニとハイタッチを交わす。 「な、わ、私は別に恩など感じてはいない! クリスを祝うのは当然の事だからな!」 「そーかいそーかい、でもこれで私のも来年から忘れられなくなったろー。期待してるよ、あっはっは!」 「…も、もう! 私が焼くからそこをどけっ!」 …うーん。 これはやっぱり、気を使われたくなかったんだろうな。隊員のみんなに。 ホントにシャーリーは私とほとんど年違わないんだろうか。 私なんてサーニャ一人に祝われるだけでテンパるのに。 バルクホルン大尉に「ほらそこ焦げるよ、ひっくり返して」と楽しげに指示を出すシャーリーを見て、 なんかこう、憧れっていうと大げさだけど、 あれぐらい大人になりたいなぁと思った。 …私の横で微笑むサーニャのためにも。 と思ってると、当のサーニャがすっくと立ち上がった。 「芳佳ちゃん…」 「うん! サーニャちゃん!」 宮藤と一緒にシャーリーの元へ近づいていく。 後ろ手にラッピングされた包みを持って。 「私たちは知ってましたよ、シャーリーさんの誕生日!」 「おめでとうございます…」 「ええー? 私言ったっけ?」 後ろから話しかけられたシャーリーがきょとんとする。 「あの…私たちの誕生日をみんなが祝ってくれたあの日が嬉しくて…それで…」 「隊のみなさんの誕生日は、前もって隊長に全部聞きました!」 あ、やっぱりサーニャも知ってたんだ。 「あちゃー、そりゃそうだよな、隊員名簿には書いてあるかぁ…しまったー」 「そんなわけで、はい!」 「良かったら…どうぞ…」 包みを前に差し出す二人。 「何か悪いなぁ、ありがとな。開けていいか?」 「はい、ばばーっとどうぞ!」 と、宮藤に言われたにも関わらず、丁寧にリボンをほどいていくシャーリー。 お礼自体はそっけなかったけど、嬉しいんだろうな。 「おー、こりゃかわいいなー」 先に開けられたサーニャの包みからは、うさぎのぬいぐるみが出てきた。 もっふもふだ。見てるだけでももっふもふ。 サーニャはプレゼントまでかわいいなぁもう。 「嬉しいけど、ちょっとこりゃ照れるな。私んとこの子が妬いちゃうぞ」 シャーリーの使い魔の事だろう。 「それだけじゃないんですよシャーリーさん! 私のも開けてみて下さい!」 「ん? なんか続きあんの?」 急かされてもやっぱり丁寧に包みを開けるシャーリー。 「ん? これ猫? いや…あ! ルッキーニの?」 「はい…黒豹…のつもり、です」 一回り小さな包みからは、ちんまりとした黒豹のぬいぐるみが出てきた。 「黒豹のぬいぐるみは…探してもなかなかなくて…」 「サーニャちゃんと二人で作ったんですけど、その、うまく出来たかどうか」 「おーーーー!!」 シャーリーが感想を言う前に、ルッキーニが大げさに反応した。 「あたしとシャーリー! あたしとシャーリーだー!」 「そうだよールッキーニちゃん、しかもねー」 むんずと黒豹をつかむ宮藤。 スッとうさぎを差し出すサーニャ。 「えいっ!」 まふっと黒豹がうさぎに乗っかった。 「合体できるように作りました!」 「おおおおーーーーーー!!」 すっげぇ…ルッキーニの目すっげぇ輝いてる…。 「うん、なんだ、そのー、かわいいものにあんま興味ないあたしでもかわいいと思うよ。  …かわいいとか言うの、なんか、私のキャラじゃないなぁもう」 照れながらもシャーリーが賛辞を送る。 「喜んでもらえましたか…?」 「ああ、ホントに嬉しいよ。ありがとう、二人とも。大事にするから」 「やったね、サーニャちゃん!」 「うん…芳佳ちゃん…」 「あーでもあたしの部屋オイルとかあるしなー、どこに置…こらルッキーニもっと大事に扱えって」 ルッキーニの全力ハグによって横につぶれたぬいぐるみに気付いて、シャーリーが笑う。 「あらあら、この後に出したんじゃ見劣りするかも知れないけど…私達も一応用意したのよ?」 「まぁ手作りに比べるとどうも無粋に見えるのは仕方ないな」 別テーブルでその様子を笑いながら見つめていたミーナ隊長と坂本少佐も席を立った。 サーニャと宮藤にシャーリーの誕生日を教えたんなら、この二人も当然知ってるよな。 「はい、これ」 隊長が一枚の書類を取り出した。 「ん? …ちょっと暗くて読みにくい」 「ブリタニアにあるストライカーユニット開発工場の見学許可証だ」 「え、マジ!? 新型とか見れる!?」 一気に食いつくシャーリー。 「非番の日にお願いね、うふふ」 「うわぁ、履けるかな!? 新型履けるかなぁ!?」 「くれぐれも無茶はするなよ、我が隊の大事な戦力の一人なんだからな」 「…なーんかー、私ら立場ないねー」 「むぅ…リベリアンめ、隠し立てなどして…」 カールスラント二人組みが少しふてくされていた。 とは言ってもハルトマンは大尉が焼いた肉をひょいひょいつまみながらだけど。 私も正直、プレゼントがあれで良かったのかなぁと思い始めていた。 時間なかったとは言え、既成品だもんなぁ。 「エイラもこっち側かー、まぁこっち来て飲みなー飲みなー」 「いや何飲ませる気だよ、私はちゃんとプレゼントあげたよ」 「えー、裏切り者ー!」 まぁシャーリーとしてもこうなるとは思ってなかったんだろう。 別に物が欲しいわけじゃない、みんなとぱーっと騒げればそれでいい。 だから夕食の時に言い出したんだろうけど、 他のみんなは既に贈り物を準備済みだったってだけだ。 「気にしてないだろ、ハルトマンは人のどころか自分の誕生日も怪しそうに見えるし」 いつもみたいに軽口でなだめる事にする。 「え、あ? …うん、えーっと…いつだっけ。ウーシュは4月19日なんだけど」 「双子なんだからフラウもその日だろう」 「おー、さすがトゥルーデ」 「どんな覚え方だよ」 と、そこに 「遅くなりましたー!」 「ハァ…腕が痛いですわ…」 リーネとペリーヌが入ってきた。 「おお、どうしたんだい二人とも。腹減っただろ、この辺焼けてるから持ってきな」 「あ、はい、ありがとうございますシャーリーさん、後でデザートもありますから食べ過ぎないで下さいね!  芳佳ちゃんから聞きました、お誕生日おめでとうございます!」 二人も今までプレゼントの用意をしていたみたいだ。 シャーリーがバーベキューの下ごしらえをした後に キッチンで突貫で作ったんだろう。 「隊長…備品として泡立て器を申請しますわ…料理って肉体労働ですのね」 「あら? 上の棚になかったかしら?」 「まぁ花嫁修業と思えばよかろう! はっはっは!」 「あ…は、はい! いつか坂本少佐に腕を奮いたく存じますわ…!」 「二人とも悪いなー、他のみんなも。かえって気を使わせたみたいだなー」 照れくさそうに頭を掻くシャーリー。 「私とフラウの分は明日まで待ってくれ、皆に負けないものを用意しよう」 「えー、トゥルーデは何か贈るものの当てでもあんの?」 「…いや」 「もー二人も気にすんなよ! こうやってみんなでご飯食べれるだけで私は十分だってのに!」 そう言いながら二人の皿に肉を盛る。 シャーリーはそう言っても、大尉は堅物だかんなー。 デカブツを用意しそうな予感がする。 「とにかくありがとう、みんな!」 輪の中心で眩しく笑うシャーリーを見てると、こっちも朗らかな気持ちになれるなぁ。 こっちこそ祝わせてくれてありがとう。 照れくさいので、心の中で感謝しておいた。 「エイラ…ちゃんと食べてる…?」 「うわっ!?」 気付いたらサーニャが横にいた。 「何だか、少し遠巻きにいたから…」 「あ、ああ大丈夫、おいしいな肉も野菜も」 「そう…良かった…」 すとんと私の隣に腰を下ろす。 「エイラはシャーリーさんに何かあげたの…?」 「うん、一応。店で買った車の模型みたいなのを。  ただなー、サーニャたちのほど喜ばれなかったかもなー。はは」 「そ、そんな事…ないよ」 「へ?」 おずおずとサーニャが反論してくる。 「夕食の準備してるシャーリーさん見かけたけど、何だかウキウキしてたよ…いつもより」 「そ、そうか? でもその時ルッキーニからのプレゼントも受け取ってたしなー」 「…それも嬉しいだろうけど…それだけじゃないもん、きっと…」 どうしたんだ、サーニャ。 なんだか強情に言い張るな。珍しい。 「だって…エイラから贈り物だなんて…羨ましい…」 もじもじと俯きながらサーニャが小さく小さく呟いた。 うへぇ…かわいすぎる…。 「私悪い子だよね…シャーリーさんの誕生日なのに…」 言葉に詰まってたら、サーニャが更にうなだれてしまった。 「あ、あの! 悪くないよ私からので良かったらまた何かあげるから、大丈夫だよサーニャは!」 慌てて喋ってるもんだから我ながら何がなんだか。 「…ほんと?」 うんうんうん。 ぶんぶんと首を縦に振る。 「…えへへ、やっぱり私…いけない子だね。すぐ嬉しくなっちゃった」 私のつたない言葉でもサーニャは微笑んでくれる。 それを見て嬉しくなる私もいけない子だ。 「…あのね」 「うん?」 宴もたけなわ、というかひと段落ついて、 リーネががらがらとケーキの乗った台車を押してきた。 さっきから続いて私とサーニャは 少し遠巻きにシャーリー達が楽しそうにはしゃいでるのを眺めている。 「エイラの誕生日…忘れてないから」 どきん、と胸が鳴る。 さっきその事については安心したはずなのに。 「喜んでもらえるかわからないけど…贈り物も、考えてるの」 「う、うん、楽しみにしてる」 「うん…」 中央のテーブルで、シャーリーが豪快に蝋燭の火を吹き消した。 「私も…とっても楽しみ」 呟きながら、サーニャが私の手を握ってきた。 喜んでもらえるかどうか、っていうか もうすでに嬉しくてどうしようもないんですけど…! これから一週間ぐらい、私の表情筋はもつんだろうか。 はたから見ると絶対変だろうなって思いながら、 それでもニヤニヤしながら、 私はとりあえず、サーニャの手を握り返すぐらいしか出来なかった。 ・エイラーニャどころかほとんどシャーリーになった…  ごめんね  でも自分がシャーリー大好きって事がわかって俺によし! ・イベントが重なりすぎてて一旦バレンタインはスルーと決意  タスク処理量が絶望的に少ない… ・結果シャーリーの誕生日からも一週間遅れだよ  ごめんね、でもおめでとうシャーリー!  イェーガー准将もおめでとうございます! ・言い訳まみれでごめんね