シャーリーの誕生日から数日経った。 じわじわと自分の誕生日が近づいてくるにつれ、 そわそわもどんどん高まってくる。 日中の出撃待機時間に意味もなくニヤニヤしてしまい みんなにからかわれる事しばしば。 ちくしょう私はいじりキャラであっていじられキャラじゃないと思ってたのに。 隊屈指のいじられキャラのバルクホルン大尉にまで 「…もうちょっと集中しないか」 と呆れられた日にはさすがに自重しないとと思う。 いやー、でも仕方ないよね! ニヤニヤもするさ! と、夜間哨戒へと飛んだ時に、横を並んで飛ぶサーニャを見て思い直した。 月光に照らされて髪をきらきらと輝かせるサーニャは何回見ても溜め息の出るような美しさで、 こんな子が私を祝ってくれるって言うんだよ? 空を飛んでるせいか 世界中に自慢したい気分になる。 「今日もありがとね、エイラ…一緒に来てくれて…」 「いやいやいや、何回も言ってるけど、これは私が飛びたいからだから、気にすんなー」 「うん…私もエイラと一緒にいれて嬉しいよ…」 おおう。 ストレートな言葉にくらくらしそうになる。 「でも…ね、近いうちに街の方に買い物行こうと思うんだけど…その時は芳佳ちゃんと行くね…」 「え!? な、なんでっ…あ」 「うん…プレゼント買いに行きたいの…」 「そりゃ仕方ないなー、私が見ちゃったら台無しだもんな」 でもサーニャと宮藤が二人っきりかぁ。 …いかんいかん。我慢だ。うん。 「じゃあ…日付も変わりそうだから、そろそろエイラは帰って休んで…」 「え、あ、もうそんな時間? 早いなーサーニャといると」 毎回の事だけど名残惜しい。 でも前に常時寝不足になった事があって、それからサーニャも押しが強い。 「そろそろネウロイ来てもおかしくないから、十分気をつけてな。何かあったらすぐ呼ぶんだぞー」 「うん…わかってる。おやすみエイラ、また後でね…」 マフラーの端をつまんでばいばいって振ってるサーニャから、 後ろ髪を引かれながらも視線を逸らす。 えーっと、日付が変わったって事は、20日になったところか。 …あと一日。 基地への航路を辿りながら考える。 子供の時でもこんな待ち遠しい事があったかなぁ。 あと24時間、24時間かぁ。 私の未来予知でも到底届かない先。 せいぜいこの後私が基地に下りてる頃ぐらいまでしか予知なんて…。 あれ、おかしいな。 もう少し未来でもまだ飛んでるみたいだぞ、私。 しかも、サーニャと一緒に。 ……!! へらへらしてる顔が思わず強張る。 「隊長、きっとネウロイだ! 私の予知だからまだ詳しくはわからない、サーニャから聞き次第連絡する!」 インカムに声を張り上げ、全力で引き返す。 「わかったわ、こっちも準備して…待って、サーニャさんから通信、敵影1。敵はまだ遠いみたいだからまず合流して。  私たちもすぐに出るからくれぐれも無茶はしないで!」 ちくしょう、ビンゴか。 大した距離は飛んでいなかったはずなのに、サーニャの元に着くまでヤケに長く感じた。 「エイラ…!」 サーニャのアンテナが赤く警告を発している。 「あんま遠くに行く前に気付いてよかった、私の能力に感謝しないとなー」 さっきとうって変わって、悲壮さすら漂う真剣な表情のサーニャが迎えてくれた。 「音はこっちの方角から…どんどん速度を上げながら向かってきてる…速い…!」 空の彼方を指差してサーニャが説明してくれる。 加速してるならサーニャも接敵時刻が予想しにくいだろう。 私はサーニャにもたれかかって、飛行に使う魔力まで全て未来予知に割り振る。 「悪いけど、支えててくれな」 「うん」 接触してると、私の予知内容もサーニャが感応してくれる。 邪魔されてたまるかよ。 もうすぐ私とサーニャが待ちに待った日が来るんだ。 落とされてやるどころか、かすり傷一つ負ってやらない。私もサーニャも。 絶対に、誰も傷つけさせない。そんな未来は許さない…! まるで霧が晴れるかのように、もうすぐ来るべき世界が覗きこめた。 …なんかすごいな、今日の私。 かなり先までいけるぞこれ。 「エイラ…すごい…」 私と同じく二つの世界を見ているはずのサーニャが声を上げた。 普段は少しだけ先を見て、アドリブで避けたり撃ったりするぐらいなのに、 「今日は作戦立てれるぐらい時間もらえそうだな」 「うん…お願いエイラ、二人で無事に帰ろう…」 私の額にサーニャがおでこを重ねる。 確かにこうした方がより鮮明に伝わる気がした。 「おそらく一分後ぐらいだな、接敵は」 「うん…すごく速くなってるね…」 「普通に私が撃っても…跳ね返されるな…じゃあ…サーニャの…」 無数の未来から様々なケースを手繰り寄せる。 「…うん、サーニャが立て続けにハマー命中させたらさすがに鈍るな…で、私がコアを撃ちぬく。よし」 「このコースに撃てばいいんだね…わかった…」 いくぶんかの魔力をストライカーユニットに込めなおし、自力で空に浮く。 「…っと」 少しふらついた。 「エイラ、大丈夫!?」 少し魔力を使いすぎたのかな。 でも心配なんてさせるわけにはいかない。 「大丈夫だって、さっきの見た…っていうか感じただろ? さぁ、さっさとやっつけちまおう」 「うん…二人でね…!」 がしゃ、とサーニャがフリーガーハマーを構えた。 「一発目…5秒前。3、2、1、0!」 私の秒読みと同時に大きな弾頭が飛んでいく。 「二発目…3、2、1、0! 三発目、1、0! 四発目も!」 角度を修正しながら、次々と襲い掛かる鉄槌。 それを見届けて、私は被弾するであろうネウロイの進路に合わせて最大加速で飛び始める。 その瞬間、一斉に4つの弾頭がネウロイに着弾した。 サーニャの発射角度調節は完璧だ。 大きく煙を巻き上げて、ネウロイは悶えるように機首を揺らす。 緩んだ敵の速度のおかげで、実に簡単に上を取れた。 撃ちまくるには最高のポジション。 予知で見た相手のコアのある中央部に、ありったけの弾と魔力をぶつける。 ネウロイの装甲が剥ぎ取られていく。 「邪魔されて! たまるかあああーーー!!」 思わず叫んでいた私に観念したかのように、 ネウロイはコアを失い、真っ白な破片を辺りいっぱいに撒き散らした。 「……はぁ……ふぅ……」 荒い息を整えようとしていたら、サーニャも私に追いついた。 「エイラ…! やったね、大丈夫…?」 やったね、とは言いながらもやたら不安げな顔で私に飛びついてくる。 「だ、だいじょぶ、だよ…へへ、攻撃も…させなかった…」 「うん、うん…!」 どうしてそんな怖い顔してるんだろう。 そう思いながらも、サーニャの顔を見てると安心して気が抜けた。 「あ、あれ…?」 その時、姿勢がぐらつく。 「エイラ!」 私に抱きついたサーニャが、そのまま私を支えてくれた。 「はは、情けないな…ガス欠かぁ…」 「…もう、無茶するんだから…」 ぎゅっと強く抱きしめられる。 「張り切りすぎた、かな…あんだけ、予知に、魔力使ったの、初めて、かも」 「帰ってゆっくり休もう…? ほら、みんなも来てくれたよ」 サーニャに視線を促されると、暗い空の向こうに豆粒みたいな隊長達が見えた。 「こりゃ、隊長に怒られるかな…無茶するなって、言われたのに」 「うん…でもね…かっこ、よかった…よ」 頬にちゅ、と柔らかな感触。 「私も一緒に叱られるから…大丈夫だよ」 いや、そのキスだけでお釣りが出ます…。 一仕事終えた達成感と、さっきの感触の幸福感の中で、 サーニャに肩を支えられたままだってのに、私の意識は眠りに落ちていった。 「シメが決まらないなぁ…」 翌日。 情けない事に私は朝から寝っぱなしだ。 目覚めてもなんかこう、体動かすのがひどくしんどい。 「さすがに昨日の力の使い方は無茶だったかー」 反省する。 気付いたら軍服から寝巻きになってて、 誰かに着替えまでさせたんだなぁと思うと、 恥ずかしさから更に反省する。 でも私の部屋にわざわざ来てくれた隊長からは、 お叱りどころかお褒めの言葉をいただけた。 「あのまま加速しているようなら、基地周辺で迎え撃てたかどうか…。  極めて少数の戦力で、よく撃墜してくれました」 ベッドに寝転がったままの私にそう言ってくれる。 無理に起きなくていいとのお達しだ。 「あぁいや、共同撃墜だから、サーニャも褒めてくれよー」 「うん…私も聞いてるから…」 ベッド脇に立ったサーニャの声を聞いて安心する。 「ただ、ここまで消耗するような魔力の使い方は…まぁ場合によるのだけれど…出来たら控えてね。  私たちだって心配じゃないわけじゃないんだから。  ま、サーニャさんには及ばないにしても、ね」 「あ、うー、うん」 素直に心配だって言えばいいのに、どうしてこう照れくさい風に言うのか。 「あのまま寝ちゃった貴方を、サーニャさんは夜通し看ててくれたのよ?」 「え、サーニャ寝てないのか!?」 勢いよくがばっと…とはいかず、むくりと体を起こしてサーニャを見る。 心に体がついていってないなー。 「き、気にしないで…もともと哨戒してた時間のはずなんだから…」 もじもじと体を揺らすサーニャ。 うあああああ、と頭を抱えたい衝動にかられる。 「お、起きたか。多少は疲れも取れたか? エイラ」 がらがらとワゴンを引きながら、次は坂本少佐が入ってきた。 「大丈夫、エイラさん? 朝ごはん持ってきたんですけど、食べられそう?」 ワゴンの後部には宮藤。 「あー、何か悪いなぁ、みんな。うん、腹減ったよ」 「よしよし、それは何よりだ。がっつりと栄養を摂って早く復帰してもらわんとな! はっはっは!」 わしゃ、と頭を撫でられる。 この隊の実質的な指揮官が二人とも来てるし、 朝も早いのにサーニャと宮藤も面倒を見てくれる。 私、こんなに良くしてもらっていいんだろうか。 「念のため、改めて確認しておくわね。疲労の他に体調の悪いところはある?」 「いや、大丈夫だと思うよ」 「そう、良かった。いえ、今日一日ぐらいは倦怠感が続くかも知れないから良くはないんだけど。  魔力の使いすぎに間違いないと思うわ」 「あの、ごめんなさいエイラさん、外傷じゃないから私もどう治癒魔法をかけたらいいのかわからなくて…」 おずおずと宮藤が、申し訳なさそうに言ってきた。 そもそもこれ治癒できるもんなのかどうかわかんないし、気にしなくていいのに。 「…宮藤はこんな風になった事ないのか?」 「え? あ、はい、魔力使いすぎて意識失っちゃった事はありますけど…起きたらだいたい大丈夫で」 むぅ。私なんかより天才なんじゃないかこの子。 「とにかく、ご苦労だったな。私たちを守ってくれてありがとう、二人ともゆっくり休んでくれ」 「今日ネウロイを撃退したんだから夜間哨戒も必要ないでしょう、今日明日とオフにしておくわね」 「後で食器取りに来るから! きちんと全部食べないとダメですよー!」 それぞれに私たちを労って、三人は部屋を出て行った。 急に静かになって少し落ち着かない。 「エイラ、体起こしたままで大丈夫…?」 ベッドに腰掛けながらサーニャが聞いてきた。 「うん、私は大丈夫だよ。サーニャこそ大丈夫か、寝てないんだろ?」 「だって…少し怖かったから…。エイラが起きるまでは安心できなくて…」 俯いてしまうサーニャ。 胸が締め付けられる。 「…ごめんな。気合入れすぎちゃったよ」 ぽふ、とサーニャの頭に手を乗せる。 「あ、ちが、その、私の方こそ…エイラに無理させちゃって…」 「そんな事ないよ、サーニャがいたから落とせたんだよ。ありがとな」 「…ううん、そう言ってくれて嬉しいけど…やっぱりエイラのおかげ。私のヒーローが守ってくれたの…」 う、うわー。うわー。 そんな優しく笑ってくれたら今度も無理しちゃうよ。 「…冷めないうちにご飯もらおうか」 そう言ってすっと立ち上がるサーニャに私も続こうとする、けど止められた。 「エイラは楽にしてて…」 私の分も用意してくれるみたいだ。 あー…病人(とは少し違うけど)の役得と思って、素直に甘えようかな。 「今日の朝ごはんは扶桑風みたい…お米、力つくもんね…」 そう言いながらご飯をよそうサーニャの後姿を見てると、なんかこー、アレだなー。 サーニャが奥さんに見え…。 いやいやいやいや。調子に乗りすぎだぞ私。 お盆に料理を一揃いそろえて、サーニャがベッドの横に戻ってきた。 不埒な考えを心の奥に押しやりながら、 「ありがとな、サーニャ」 とお盆を受け取ろうとする。 …と思ったら、サーニャはベッドじゃなくて横のテーブルにお盆を置いてしまった。 「…どれが食べたい?」 「へ? あ、うーん、喉渇いた気もするから、ミソのスープかなぁ」 「…はい」 あぁ、ベッドに置くとこぼすかも知れないからなー。サーニャは気がつくなぁ。 熱いスープを一口すする。 あー…安らぐなぁ。 「…次は?」 その一口が済んだと思ったらサーニャがすぐ聞いてきた。 てきぱきしてらっしゃる。 「じゃあ力がつくっていうご飯もらおうかなー。なんかごめんな、何から何まで」 「気にしないで…」 スープのお椀を返して、ご飯を待つ。 サーニャも食べなくちゃならないのに、情けないなぁ。 と自戒していると。 「…あーん」 気付いたら箸にすくわれた一口分のご飯が目の前にあった。 「あ、え、え?」 「……あーん」 もしかしてこれがやりたかったんですかサーニャ。 「だ、大丈夫だって! そこまでしてくれなくても!」 「………あーん」 …。 結構強引なとこもあるよね。サーニャ。 そこもかわいいんだけど。 いやね。 正直言って嬉しかったのは否定できないね。 恥ずかしかったけど。 だってサーニャがヤケに嬉しそうなんだもん。 なんかこう、妙に私の世話を焼きたがる時があるなぁ。 私そんな頼りないかなー。 まぁ確かに押されるままサーニャに食べさせてもらっておいて 頼りがいがあるとは言えないかも知れない。 「ん、もういいよ、ごちそーさん」 「そう…? 足りなくない…?」 「いやいや、いつもこんなもんだよ。うん、満足満足」 「そっか…」 少し残念そうなサーニャ。 「ほら、私ばっかじゃなくてサーニャもおなか空いたろ?」 「…そう言われれば」 いそいそと自分の分の支度にかかるサーニャ。 穏やかな日差しが部屋に降り注ぐ中、 もむもむとご飯を食べるサーニャを見つめる。 あー…うん。 頑張って良かったなぁ。 誕生日とかおいておいても、これこそ私が守りたかった光景だ。 そう思った。 「……エイラ、何だかその、見られてると食べづらい…」 ふと手を止めたサーニャにそう言われる。 「あ、あぁ、ごめんごめん!」 慌ててくりんと顔を窓に向ける。 いや、でも、ちょっと待てよ。 「…でも私も見られてたと思うんだけど。至近距離で」 「…それは…そうだけど…。も、もう、ごちそうさま…!」 「え、ホントにちゃんと食べたか?」 無言で茶碗を私に見せてくる。 空っぽだ。 「ふー…やっとひと心地ついたかな。寝てた私が言う事じゃないけど」 「うん…安心して、ご飯も食べて、ちょっと眠くなってきちゃった…あふ」 食器をワゴンに片したサーニャが、かわいくあくびをする。 「うん、寝よう寝よう。私ばっか気を使われてるけど、サーニャにもみんなもっと優しくするべきだよ」 「私は…いいんだよ。エイラがその分優しくしてくれるから…」 あう。 過保護すぎるだろうか。 一瞬そう考えてる隙に、サーニャがベッドに入ってきた。 「わ、い、一緒に寝るのか?」 「…いいでしょ?」 布団から半分だけ顔を出して、サーニャが上目遣いに見てくる。 断れる わけが ない。 と、そこでドアがノックされた。 返事する時間もなく 「ちゃんと食べましたかー?」 宮藤が部屋に入ってきてしまう。 「わ、わぁ! 急だなぁもう!」 「えー、ちゃんとノックしたじゃないですかー。うん、だいたい食べられたみたい。良かったぁ」 ワゴンの食器を確認して宮藤が息をつく。 「あー、うん。うまかったよ、ありがと」 「お礼はいいですから、早く元の調子に…あれ? サーニャちゃんは?」 「ここ…」 ベッドからもぞりと手を上げるサーニャ。 もう相当眠そうな雰囲気。 「あ、ごめんね、眠いよね。…でも二人、やっぱり仲が良くて素敵! 一緒に寝るんだね!」 朗らかに恥ずかしい事を言うなぁこの子は。 「な、何か悪いかよぅ」 「だから素敵って言ってるのにー。それじゃ二人とも、たっぷり休んでね!」 がらがらとワゴンを押して、宮藤は出て行った。 「ったく、騒がしい奴だなぁ…サーニャ?」 ふと視線を下ろすと、サーニャは既に眠りについていた。 よっぽど疲れてたんだな…。 「ごめんな、無理させて」 頬を撫でると、猫みたいに頭を摺り寄せてくれた。 …今回自分は無茶したけど、それでもサーニャをこれだけ消耗させてしまった。 もっとしっかりしたいな。 サーニャを守って、その上心配させないように。 …無理かなぁ。 でもホラ。 好きな人の前じゃ、かっこつけたいじゃん。 サーニャを起こさないように、ゆっくりと横になる。 目の前には、規則正しく寝息をつくサーニャ。 普段はこんなの見ちゃあ寝れなくなるとこだけど、今日はさすがにしんどい。 さっきも寝てた…のになぁ…。 そうやって私はその日二度目の眠りについた。 唐突に目が覚めた。 なんかさっき寝たばっかなのにすぐ起きた感じ。 夢も見なかったんだろうか。 「んんうぅ…」 無意味な声を漏らしてみる。 「あ…起きた? エイラ」 寝る時もサーニャがいてくれて、起きた時もサーニャが待っててくれる。 何という果報者。 「うーん…あんま寝たって感じがしないな…おはよ、サーニャ」 「…もう。私は間に合うかどうか不安だったんだよ?」 「間に合うって…何に?」 「ほら…時計見てみて?」 んー、11時半。 「は!?」 「うん…もうすぐ日付変わりそうだよ…」 なんてこった。 一日中寝てたのか私。 確かに窓の外は真っ暗だ。 あ、でも体は軽いな。 びょん、とベッドに跳ね起きてみる。 続いてぐぅんと腰をひねる。 「うん…よし」 「エイラ、大丈夫そう…?」 「うん、すっかり元通りっぽい」 試しに魔法を発現させてみる。 いつものように、ぴょこんと耳と尻尾がはえた。 「良かった…」 すとんとベッド横に下りる私に、サーニャが抱きついてきた。 「あ、あの、その、し、心配かけてごめんな?」 いまだにどぎまぎする私かっこわるぅ。 「うん…やっぱり今度からはこんなに無理して欲しくないよ…」 「…わかった、約束するよ」 私の胸に顔を埋めるサーニャの頭を撫でる。 「…ごめんね。守ってもらったのに、わがまま言って」 「それはわがままじゃないだろー? …嬉しいよ、私の事心配してくれて」 言葉もなく、ただ私の腕の中でサーニャが頷いた。 「…朝から何も食べてないでしょ? おなか空いてない?」 「あー、起き抜けだからよくわかんないけど、たぶん」 「あとお風呂にも行かないとね…結局入れないままだったから…」 「うあ、やっべ、臭ってないか!? ちょっとごめん離れてサーニャ!」 悪いと思ったけど、ぐいっとサーニャの肩を押して離れた。 「ううん…エイラの匂い、安心するもの…」 う、うっわ、これ下手な褒め言葉よりずっとずっと恥ずかしいぞ。 「そう言ってくれるのは、あの、嬉しいけど、でも早くサウナ行こうよーサーニャー」 「…ん、あのね…あと少しだけ待って、エイラ…お願い」 …? 私を止めたものの、特に何かするわけでもないサーニャ。 どうしたんだろ。 じっとして、サーニャも何かを待ってるみたいな。 私じゃなくて、私の後ろの時計を見てる。 そう気付いた時、サーニャの顔にぱあっと笑顔が咲いた。 「お誕生日おめでとう、エイラ…!」 …あ。 そうか。 今日がもう来ちゃったのか。 あんなに待ち遠しかったのに、いざとなるとあっという間にその時が来てしまった。 呆気に取られる。 「うふふ、私が一番にエイラに言いたかったの…叶っちゃった」 そう言って満面の笑顔を私にくれるサーニャを見ていると、胸がつまる。 思わず強い力でサーニャを両腕にかき抱いた。 「わ、え、エイラ…?」 「ありがとう。本当にありがとう、サーニャ」 「そ、そんな…私こそ」 「いや。私がこんなに嬉しいのはサーニャのおかげだよ」 もう頭が真っ白で、ただ思い浮かんだ言葉だけを口にする。 「うん…おめでとう、エイラ…」 サーニャも同じ言葉を繰り返し伝えてくれた。 深く息を吸って、吐いて、気持ちを落ち着かせる。 私の腕の中で目を閉じてくれてるサーニャを見て、さっきの不安が甦った。 「あー、あの、ホントに臭ってない?」 「もう…エイラったら雰囲気読めてないんだから…」 少し不満げな声を上げて、サーニャが離れる。 「私はもうちょっと…いや、でも、お風呂行こっか」 少し顔を赤くしてサーニャが頷いてくれた。 「少し変態っぽかったかな…」 聞こえないぐらい小さい声の呟きが偶然耳に届いてしまって、私もひどく恥ずかしくなってしまう。 二人で着替えの準備をして、ドアの方に歩く。 ノブに手をかけたサーニャが、振り向いてこう言った。 「思い出になる一日にしようね…エイラ」 …うん。 今日はずっとサーニャと一緒にいよう。 で、ずっと忘れられない思い出にするんだ。 その返事を込めて、ノブに乗ったサーニャの手に自分の手を重ねた。 ・おめでとうエイラさん! ・魔力使い果たしたらどうなるかとか、ついでに言うと前回のラジコンも割と捏造です  ぐぐったけど1944年にはラジコンはなかったっぽい  許してね ・この期に及んでまた続いたりします  我ながらなげぇ!